第21章 21.
丸3日居座った嵐が、ようやく過ぎ去った。
不幸中の幸いか。
この天候でのけが人や救急は無く、診療所には訪問者も緊急要請も無かった。
朝。
朝食の前に、侑士は紫陽の部屋にいた。
「できました」
「ありがとう、侑士先生」
怪我の包帯は、すでにガーゼのみになっていた。
「傷の状態は悪ないと思います。
保護も、今週中にはやめられるでしょう。
動かしづらいとか、引きつけや熱を持ったりしてませんか?」
「はい、ありません」
「ほんなら、明日もガーゼの交換をしますので、また伺います」
ハサミや残りの包帯を金属製のトレーに載せ、椅子から立ち上がった侑士を、紫陽が呼び止める。
「自分でできるんだから、わざわざ来なくていいのよ?」
「せやけど、片手じゃうまくいかんでしょう
ましてや肩やし」
「侑士先生は、本当に優しい人ですね」
「やさしい、ですか...」
ええ、と手当てした肩を見る紫陽に手を伸ばす。
「あなたが、やさしいからですよ」
「え?」
サラ、と頬に当たる髪に触れる侑士の指。
「やから、周りにいると優しゅうなる。
そばにおると、感化される」
「侑士先生?」
「俺を選んだんは、俺が諦めてへんかったからやとあなたは言うたけど、あの時、俺があなたに買われたかったんかもしれへん」
「侑士、」
「感謝しとります。
救ってくれたこと、医学を教えてもろたこと」
するりと下ろした手で紫陽の手を取ると、その手にキスをした。
「ッ!」
驚いた紫陽に、にこり、と笑いかけ、残ったガーゼや使用済みの消毒綿を乗せたトレーを手に立ち上がった侑士。
「未熟モンの戯言やと流しとってください。
せや、先生、たまにはゆっくり休まはったらどうですか。
診療所には、俺がおりますから、たまにはあの『秘密基地』でゆっくりしはってください」
『秘密基地』は、シルキッサが来ない限りもぬけの殻になる厩舎の事だった。
紫陽が幼い頃は、シルキッサ以外の馬や牛などの家畜が飼育されていたが、紫陽の父親が亡くなり、管理をする人間がいなくなったため、動物たちはほかの牧場へと引き取られて、今は保管場所として使われている。
薬物除去後、一人になりたい時にいい、と、紫陽が侑士に教えた場所だった。
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