第20章 20.
相変わらず天候は悪く、外は完全な嵐だった。
カズハが来ていることを知った子どもたちは、カズハさんだー!と嬉しそうに彼女に駆け寄った。
子どもたちに集られ、うるさいねぇ、と言う彼女の顔は、これまでで一番優しい表情だった。
「紫陽せんせーは?」
「ん?
紫陽はね、あの『若先生』と話があるって、診療所にいるよ。
邪魔しちゃあいけないよ?オトナの大事なお話さ」
「「「はーい」」」
素直な子どもたちに手を引かれ、食堂に向かう。
「あれ?カズハさん、お久しぶりですねぇ」
珍しい、とキッチンの空木。
「紫陽に『たまには俗世を見ろ』と連れ出されたよ」
「あははっ!しばらくぶりですもんねぇ。
今日のランチはクラムチャウダーと全粒粉のソフトバゲットに、サラダは菜園の朝どれ野菜とゆで卵。どうです?久しぶりに食べてもらえませんか?」
「バケットとサラダだけもらおうかね。
卵は抜いておくれ」
「はいはい」
カズハは、動物性タンパク質を摂らない食生活を長くしていることを知っている空木は、カズハのオーダーを軽く了承して支度に取りかかった。
いただきまーす!と子どもたちが食べ始めた頃、にこやかな紫陽と心配そうな侑士が食堂に来た。
「馳走になってるよ」
「ぜひ。空木さんのご飯はとってもおいしいから」
紫陽に椅子を引き、水の入ったグラスと支度された食事を紫陽の前に甲斐甲斐しく整える侑士。
「せんせー、どうかしたの?」
「なんでもないのよ。
ちょっと、山で怪我をしちゃって...」
自分の食事をテーブルに置いた侑士は、それには手を付けず、紫陽の膳を引き寄せ、スプーンを手に取る。
パンを一口大にちぎり、サラダのドレッシングをかけ、クラムチャウダーをスプーンで掬って、吐息で冷ます。
「侑士先生、自分で食べられますから...」
「ええから。
医者の言う事、聞いてください。はい」
困った顔の紫陽は、チラ、と子どもたちを見て、はい、と僅かに口を開けた。
「せんせー、ご飯、食べられないの?」
心配そうな子に、侑士は言った。
「利き腕に怪我しはったんや」
サラダを手にしながら、パンがええですか?と聞く侑士。
いつかとは真逆だ、と紫陽は差し出されたパンを口にした。