第20章 20.
赤く開けていく紫陽の肩の皮膚。
徐々に見えてきたポイントに、矢を支えながら切開していく。
「チッ」
片手で矢を支えながらメスを握る侑士は、チラ、とカズハを見た。
「矢、倒れへんよう持っとってもらえますか?」
「わかった」
左手で支えていた矢を彼女に任せると、大丈夫さ。案外しっかりした手付きだ、と紫陽に声をかけるカズハ。
紫陽の肩の表皮を押さえながら、そっ、と切っ先まで見えている矢を抜き取った。
傷口から溢れ出る血液をガーゼで吸い上げ、創部を見る。
縫合用の針と糸を用意し、慎重に縫い合わせていく。
「やるじゃないか、若造」
戸惑いの無い侑士の手に、カズハは感心して頷いた。
「アンタが育てたんだね」
「いえ、侑士は、以前から医学の知識を持つ子でした...
私がいなくても、正しく医学を学び、優秀な医者になっていたでしょう」
「アンタが連れてきたのかい?」
それは...と侑士を見た紫陽。
「買うてもろたんです」
目線を紫陽の肩の傷に定めたまま、手は止めない侑士。
「買った...?」
「侑士、」
目を見開いたカズハと、咎めるような声の紫陽を無視して、処置を続ける。
「生まれも親も忘れました。
名前も、忘れとりました。
気ぃ付いたら、『氷の場』の『市場』で売りもんにされとったんです。それを、紫陽はんが買ぅてくれて、ここに来ました」
「お前さん、」
何かを言いかけたカズハに、紫陽が言った。
「侑士には、ここに来る前の記憶が、無いの...
『派遣所』にいた経緯も不明で。
その、ほら、ね?あのままじゃ、この人、きっと...」
言い淀んだ紫陽に、侑士は首を傾げたが、カズハは、そうだね、と目を伏せた。
「どこぞの白拍子面のニンフォマニアには、受けがよさそうさ」
「せっかく濁したのに...」
あーあ、と苦く笑う紫陽。
機材を銀のトレーに置くと、ふう、と一息ついた侑士。
「処置完了や」
「ありがとうございます」
「...医者が医者ん仕事、増やさんとってください」
「肝に銘じまーす」
あはは、と笑った紫陽に、安堵した笑みで頷いた侑士を見て、カズハは、へえ、とシワの無い目尻を少し下げた。
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