第20章 20.
ロビーのソファに掛けられたマルチカバーを引ったくると、紫陽の胸下、傷と心臓の間で結び、残った布で紫陽の身体を包む。
「捕まって」
「歩けるわ...」
「無理や言うたやろっ」
歩こうと紫陽が下ろした脚を掴み、半ば強引に抱き上げる。
「んっ」
「堪忍な、辛抱してや」
「っごめんなさい、迷惑かけて...」
「医者、一人増やしとった過去の自分に礼、言っときや」
痛みに歪めた顔を、そうね、とふっと緩めた紫陽。
「手術室、連れてくで。
矢に、なんや毒とかついとらんよね?」
「無いと、思うわ。
もしそうなら、とっくに、気を、失ってる...」
ふう、と息を吐く紫陽を抱き上げると、教会の鐘が鳴り、ハッと2人は館を見た。
昼だ。
昼食をとるため、子どもたちが館の食堂に帰ってくる。
侑士のシャツの肩辺りを鷲掴んだ紫陽の手に彼女を見ると、フルフルと頭を横に振る。
「戻んなっ!」
車からの声に、運転席に乗り込んだ訪問者の彼女を見た。
「手当は、お前さんができるんだろう?
診療所の方に回ればいいんだねっ?」
「侑士、一緒に来てくれる...?」
「わこぅた」
紫陽を抱いたまま車の後部座席に乗り込むと、急発進した車に、一瞬驚き、腕の中の紫陽を強く抱く。
館の角をスピードを落とさずに曲がった車に、ばあさんっ!と声を上げた。
「危ないわっ!」
「急いでんだろい、任せなっ」
そう広くはない敷地内の道をかっ飛ばし、診療所の入り口の隣にギャッ!と音を立てて停めた。
「ここでいいねっ?」
「どんなばあさんやねん」
「黙んな、ひよっこ!」
早くしなっ!と怒鳴られ、紫陽を抱いて診療所に駆け込んだ。
「自分の、はぁ...支度は、するわ
ヨードと...縫合の機材を...」
わかっとる、と手術台に紫陽を寝かせた。
「矢に『かえし』がある可能性があるから、創部を数ミリずつ切開。『かえし』が見えるまで開いて矢を除去。
内部の止血と消毒、縫合。毒による組織の破壊等の有無確認して、必要なら処置して表皮縫合、やろ?」
そうよ、と頷いた紫陽。
「なにができる?」
すぐ隣に来た訪問者の彼女は、教えな、と慣れた手つきで手術着の紐を結んでいた。