第20章 20.
天候も悪く、診療所への訪問者も無い。
久しぶりに図書室で医学書ではない本を読んでいた侑士は、雨風の音の中に車のエンジン音を聞きつけ、館のリビングへと向かっていた。
バンッ!と開かれた館の扉。
ロビーに入ってきたレインローブの人は、フードを取ると叫んだ。
「空木はいるかいっ!?」
鋭い目突きで見渡すと、捉えた侑士に、誰だい?と聞いた。
たっぷりとした白髪と矍鑠とした声に、あんたこそ誰や?と言いかけた侑士は、彼女の後ろに揺らめいた影に気づく。
「シルキッサ?」
館まで来るのは珍しい、と本を置いてそちらへ向かうと、中を覗き込むシルキッサが、明らかに慌てた様子で玄関前を歩き回った。
「どないしたん?
こん人、知っとるんか?」
忙しなくするシルキッサをなだめる侑士に、お前さん、とローブの人は目を見張った。
「なんや?」
侑士のシャツの袖を食み、懸命に引っ張るシルキッサ。
外へと出ると、雨の中、黒い小さな車が1台、止まっていた。
手を離すと、心配そうにその車の窓を覗くシルキッサ。
こちらを見た大きな目に、侑士は、玄関に置かれている共有の傘を差して車へと近づいた。
車がどうしたん?と助手席の方へと近寄ると、シルキッサが鼻先を擦りつけるサイドガラスが開いた。
「シルキッサ...」
「っせんせー!」
窓の隙間から鼻先を押し込むシルキッサを撫でる紫陽に気付いた侑士は、傘を放り出して、車のドアを開けた。
「せんせー、せんせー...なしてっ」
「大丈夫よ、大丈夫」
そう言った紫陽は、下車しようと体を動かしたが、うっ、と顔を顰め、腰の辺りを手で押さえた。
じわ、と白いシャツに広がっていく深い赤に、見して、と侑士は濡れるのも気にせず、車の脇にしゃがんで紫陽の腹部の傷を見た。
そこには、半分に折れた、矢のようなもの。
これは、と傷の周囲を確認する。
「ボウガン...」
途中で折れている矢は、クマなどの大型獣を狙うための大きなものだ。
「ちょっと...ね」
「出血は多くない。けど、抜いたらヤバいな...」
「大丈夫。歩けるわ」
「歩かせられるわけないやろっ」
「平気よ。
ここからじゃ、子どもたちに見られる。
カズハちゃん、車を診療所側にっ...!」
顔を歪めた紫陽に、そうやっ!と侑士はロビーに駆け戻った。