第20章 20.
「カズハ様は、お館様...紫陽様のお父様と年の頃が近く、若かりし頃は、奥様とお館様を取り合った仲だったんですよ」
「へえ」
医療器具の手入れを手伝ってくれる葵は、懐かしそうに目を細めた。
「どちらがお館様の結婚相手にふさわしいか、いつも競っていらっしゃいました。
皆様が17歳になる年に、カズハ様のお兄様が、戦で亡くなられましてね。お二人のごきょうだいでしたから、カズハ様のご両親が営む炭鉱を継ぐためにカズハ様はご当主になられるご決断をされ、身を引かれたんです。
けれど、カズハ様と奥様は親友でもあられましたから、紫陽様がお生まれになった時、奥様、お館様の次に紫陽様をお抱きになったのは、お二人の希望でカズハ様でした」
侑士が紫陽の家族の話を聞くのは初めてだった。
「奥様の強い希望で、カズハ様は紫陽様の乳母として、炭鉱経営の傍ら、この屋敷で、紫陽様が15歳になられるまでこちらで過ごされました。
先々代様もカズハ様を可愛がられ、紫陽様にとってのカズハ様は、第二の母であり、姉であり、親友であり、経営学の師でもあられます」
「なして、今はここで暮らしてへんの?」
それはですね、と葵。
「先代様と奥様が亡くなり、紫陽様の希望で、墓石は皆様がよく遊んでいた炭鉱跡地にたてられました。
カズハ様は、お二人のそばで余生を過ごしたい、と希望されたので、紫陽様が炭鉱の休憩室を改装され、今はそちらにご隠居されております」
「タンコー?は?どうなったん?」
「カズハ様のご両親が運営されていた炭鉱は、年々採石量が減っていて、紫陽様が生まれた翌年に閉山となりました。
長く手を入れられず廃れ切っていましたが、数年前から紫陽様の発案で、薬草畑になっています。日々の手入れをカズハ様が担っていらっしゃるので、この天候で、ご心配になられて向かわれたのでしょう。
カズハ様は、お若いころから少々...お転婆が目立つ方でしたから」
明らかに言葉を選んだ葵に、どんな人なんやろ、と侑士はガタガタ鳴りだした診療所の窓にため息をついた。
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