第20章 20.
「え?」
パチ、と瞬く紫陽は、だって、と診察室で声を潜める向かいの彼女を見た。
「なんか冷たいじゃないのさ」
関節の痛みを長く訴えている高齢の患者は、チラ、と受付の侑士を見た。
「声も低くて愛想も無いし...
医者のくせに冷たいんだよ」
「そう、ですか?」
うん、と彼女は頷く。
「先代さんだって男だったけど、まだよかったよ。
笑うし、話し方にね、まだ温もりがあったよ
けど、侑士先生はなんか壁があるって言うか、ちょっと『遠い』んだよねぇ」
「遠い...」
父を知る彼女は、なんか怖くてねぇ、と膝の鞄を抱えた。
「話し方も、なんとかならないのかね...
考え方が古いのはわかってるよ。けどねぇ、あたしらにはあの話し方はどうしても『氷の場』の人間に思えてねぇ。
あの口調なのに、甘ったれた猫撫で声じゃないってのも、なんだか気味が悪くてねぇ」
一瞬、紫陽は顔を歪めたが、お言葉ですが、と微笑む。
「侑士先生は、優しい方ですよ。
お料理も上手で、とても器用なんです。
ほら、このガーゼなんて、こんなに揃ってるし」
侑士先生が切ってくれたんですよ、とガーゼを保管するためのカスト管を開けてみせる。
「話し方だけでは決めつけては、失礼ですよ。
訛りなんで、昔の事。
今じゃ流行りのようなものではありませんか。
若者は、それに魅力を感じて真似る人たちもいます」
そうだけどねぇ、と溜息をつく彼女。
「私はちょっと、苦手だね」
「優秀な方です。
そう先入観を持たれないでくださいな」
そういった彼女は、侑士から薬を怯えるように受け取って、引きつった笑い方で帰って行った。
(全ての人に魅力的に見える人なんて、いるわけないんだから...)
気にしないでおこう、と彼女のカルテを書く手が止まった。
(私、今...)
「こんにちはー!」
明るい甲高い声に、はいっ!と一人で対応していた頃のクセで返事をした。
こんにちは、と控えめに入ってきた侑士と同世代の女性を押しのけ、もう一人の女性が受付のカウンターに腕を乗せ、待合側から窓口に上体を身を乗り出していた。
一瞬の間があり、侑士は窓口に受付票を出した。
「あっ、診察はいいのっ
侑士先生に聞きたいことがあって」
満面の笑みの女性と控えめな女性に、侑士の眉間に皺が寄った。