第19章 19.
「堕胎?」
そう、と運転席で頷いた紫陽の横顔を見つめる。
「身籠った子を、生まれてくる前に...」
「殺して欲しい、言う事か...?」
なして、と言葉を失う。
「彼女の言う通り、命を産むということの母体への負担は大きすぎる。
だけど、そんな簡単に決めていいことじゃない。
だから、父親と一度話を、と言ったら...彼女、元娼婦なのよ」
「ショーフ...」
あ、と侑士はうつむいた。
「お客を取らなくなってもうしばらく経つそうだけど、父親が結婚を決めた彼かは...」
「それって、調べよう、無いん?」
「無いわね。子供が生まれてみないと、分からない。
侑士、あなた、ユウちゃんが生まれた時のことを覚えている?」
「覚えとるよ」
あれから数ヶ月。
ユウはいつもリナの背中におぶられ、店の客に愛想を振りまいている。
時たまに店行く侑士が「抱っこしといて」とリナに押し付けられるように抱っこすると、キャアキャアと笑って懐いていた。
「子どもは、父親と母親の染色体を持って生まれる。
髪や目の色、顔つきはどちらかもしくはどちらかの親、祖父母と似通うことが多い。だけど、誰とも全く異なる色の髪や瞳を持って生まれて、誕生を喜ばれるはずの場が凍ることもある」
突然変異ということもあるのだけれど、とハンドルを切る紫陽。
「母親、卵を疑う余地は無い。だって、その母体から生まれてるんだから。
そうなると、疑われるは父親、種が違うこと
彼女の場合、職業柄、避妊が完璧だったとは言えないし、恋人に娼婦であったことを話せていないようだから、もし、彼とも彼女とも違う肌や髪、目の色を持った子が生まれたとしたら...」
産湯から上がり、気持ちよさそうに寝ていたユウの寝顔がリツとそっくりで、そのリツは、父・センリの生き写しのように似ている。
ただ、いつも侑士を見てにっこりと笑うユウの瞳は、リナと同じブルーグレーで、そのユウを大事そうに見ているリツの目は、センリと同じヘーゼルだ。
(もしも、生まれた子が、母親とも父親とも違う色を持つ子やったら...)
祝福の場は一転して修羅場だ、と侑士は溜息をついて自身の手を見た。
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