第19章 19.
「すみません、侑士先生はなかなかこう...言葉を選ぶのが苦手なところがあって...」
受付で紫陽に診察料を支払った妻は、とんでもない!と声を上げた。
「紫陽ちゃんは優しいから、この人なんかなーんにも響かないんだものっ
侑士先生みたいに、脅しかけるくらいまで言ってくれてちょうどいいのよっ」
「すいません、本人、脅しているつもりはないと思うんですが...」
「いいのよったまには鞭打ってやらなくっちゃ!」
「そんな...
お薬、いつものものになります。また、無くなる頃にいらしてください。それまでに変化あればいつでも...」
「いつもありがとうね」
「お大事に」
紫陽が調合した夫の薬を抱えて帰る妻。
午前の診察時間の終わりを過ぎた時計の針に、受付に『休憩中。14時より再開。緊急時はお声掛けください』と書いた札を置き、カーテンを閉めた。
以前は、患者が日帰りで点滴を受ける間の休憩などに使っていた方の部屋の扉が空いている。
扉の脇に、『Dr.侑士』と彫られ、月の絵柄が付いた木札を打ち付けたのは数ヶ月前。
その隣の閉められた扉の脇には『Dr.紫陽』と太陽の絵柄の木札。
それぞれの診察室に分ける提案をした紫陽に、子どもに限らず、文字が読めない人でも判断できるよう、太陽と月の絵柄をつけようと言ったのは、侑士だった。
基本、受付は2人とも担当する。
紫陽が受け持つ患者の時は、侑士が薬の確認と会計をし、侑士が受け持つ患者の時は、紫陽が薬の確認と会計をする。
2人体制になった診療所には、『同性の医師ならば』と、それまで足が遠のいていた男性患者も来院するようになった。
そっと扉から中を覗くと、デスクに向かって書き物をしている侑士の後ろ姿。
低い位置で結われた髪が、真白な白衣の背に垂れている。
その姿に、遠く記憶する父が重なった。
(父は、もっと明るい髪色だったな)
暗色の侑士の髪と、煌めくような金色の髪だった父とは似ても似つかないが、あのデスクに向かって真剣な眼差しでペンを持つ姿が、とてもよく似ていた。
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