第18章 18.
「アンリっ!」
呼び止められて振り向くと、「おしごと」をしなくなったかわりに、1日、白衣を着て診療所にいる侑士が、駆け寄って来た。
「今日、夕方時間もらわれへん?」
「いいけど、」
「ほんなら、16時の鐘がなったら、診療所に来てや」
「わかったよ」
待ってんで、と踵を返した侑士の白衣が、ふわっと、真っ白に翻った。
✜
「うわーんっ」
「すんません、暴れたら危ないんで、しっかり抱いたっとってください」
農具で怪我をした子を抱いて駆け込んできた母親は、はい、と泣きじゃくる娘を抱きながら、侑士を見た。
ピンセットで摘んだ消毒液が染み込んだコットン球で、流水で血と汚れを流した傷をトントン、と拭く。
「うっわぁぁああん!」
「沁みるなぁ。沁みる言うことはバイ菌入ってんで。
これで治るさかい」
手早く消毒を済ませ、ガーゼを張り付ける。
「おしまいやで」
触ったらあかんよ、と医療具を片付けて、デスクの脇の箱から取り出した物を子に渡す。
「よぉ我慢したな」
尻尾を動かすと羽を羽ばたかせる折り紙の鳥を受け取った子は、グス、と鼻を啜って、ありがとぉ、と小さく言った。
「ありがとうございました」
「いえ、こんくらいやったら、俺でもできるさかい」
「助かるわぁ。
今まで、お医者様は紫陽先生しかいなかったでしょう?
侑士先生が来てくれて、みんな喜んでるのよ」
「けど、俺、まだこんな簡単なことしかでけへんから」
「そんなことないわ。
『ここに来れば安心できる』って思えることは、とても貴重なことよ」
ありがとうございました、と母親は、少し落ち着いた娘を抱き直す。
「処置料は?おいくら?」
「あ、えっと...」
戸惑った表情の侑士に、母親はクスリと笑って、コインを1枚、机に置いた。
「紫陽先生は、いつも『ケガも病気もしてこそ子ども』と、500シークしか受け取ってくれないから、これでいいかしら?」
「...わかりました」
1枚の500シークコインを手に取る。
「紫陽先生は、まだ話せない子の診察はお金を取らなかったり、患者の事情によってはいろいろ理由だてて診察代を取ろうとしなかったりするから、経営は大変でしょうけど、頑張って」
ありがとう、侑士先生、と子を抱いて帰る母親を見送った侑士がこちらに気づいた。