第18章 18.
朝ごはんを食べようと食堂に向かう。
(う、小麦の匂い...)
多分、誰かがパンを食べているんだろう。
それだけで、ムズムズしてきた腕を擦る。
そっと食堂を覗くと、みんなが朝ごはんを食べていた。
(パンの匂いだ...)
食堂の一番近くでパンを食べていたのはカレン。
舞った粉を吸うだけでもムズムズしてくる小麦を使ったそれは、焼いてあっても近づきたくない存在。それを口にしている。
(お腹すいたなぁ...)
いつもは、誰よりも早く起きて、誰もいないうちに食事を済ませてしまう。
けど、今日は寝坊してしまった。
(まあ、食べなくてもなんとかなるか...)
ここの大人はしっかりしていて、食事を摂っていなかったり、朝、起きてこなかったりすると、誰も忘れることなく、誰かが声をかけに来る。
(ここの方が、過ごしやすいんだよな...)
家では、何度も苦しい思いをした。
ここの大人は、「私の料理が食べられないっていうの!?」と叫ぶ母のように熱々のグラタンを投げつけることもしないし、「食べたくないなら食べるな」と父親のように食べられるものまで取り上げたりもしない。
むしろ、自分が気づかぬうちに小麦に近づいていたら、紫陽さんをはじめとした大人のみならず、子どもたちさえ、「小麦があるよ」と教えてくれて、遠ざけてくれる。
時には、「気づかなくてごめんね。痒くない?苦しくない?」と、心配さえしてくれる。
パンが無くなる頃に、寝坊を装っておにぎりでも貰いに行こう、と部屋に戻ると、空腹をごまかすために布団に潜り込んだ。
そう経たないうちにドアがノックされ、アンリ、と低い声がした。
(侑士...?)
「アンリ、おる?」
珍しい口調は侑士に間違いない。
部屋のドアを開けると、炊きたてのご飯のいい匂いがした。
「おはよう。
朝、食うてへんやろ?」
ほら、と彼が手に持つ盆には、おにぎり2つと素焼きの魚に、野菜のスープ。
「お腹空いとるやろ?
食堂、食べづらいやろから、部屋で食べや。
ちゃんと手、洗ぅたし、小麦と牛乳、つこてへんやつやから」
牛乳も、小麦よりはマシである事自体は問題ないのだが、チーズしかり生クリームしかり、口にいれると最後、蕁麻疹が出て吐いてしまう。
「ゆっくり食べや」
盆を受け取ると、ほなね、と侑士は笑った。
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