第2章 2.
すやすやと安定した息に、食事に少量混ぜた安全量の睡眠剤が効いたようだ、と、額の髪をそっと払うと、綺麗な形の頭骨の額にも青痣があった。
袖を捲った腕には、時間の経過で消失を待つしかない痣と歪に塞がる切り傷、擦り傷。
(骨は、折れてないのね)
肘から上には、痛々しい縄状の索痕、ミミズ腫れと低温火傷。
シャツを捲ると、薄い胸板に鞭の打撲痕。
肋は折れていないようだ。
聴診器で胸と胃の音を聞くと、雑音は無かった。
持病無し。健康状態良好。中肉中背。
『市場』での売り文句に間違いは無いらしい。
「ごめんなさい」
眠る彼に謝り、できる限り負担がないように下半身の診察をする。
(身体、精神、性的虐待のオンパレードね)
服を整えた彼の顎にはうっすらと髭が生えており、年の頃は10〜20代と思われた。
30代というには肌にはハリがあるし、12歳未満というには骨がしっかりしているように見受けた。
骨盤の状態からもそう年は取っていないと思うが、正直、あんな仕打ちを受けてきたなら分からない。
性的虐待を受けていたのは明らかだ。
明らかに人為的な傷が性器や排泄口にあった。
男だからと体内を下腹部から探られていないとも限らない。
あの態度では、明らかに何かしらは弄られているだろう。
男の性奴隷が珍しいわけでもない。
世の中には、彼くらいの年の男に欲情する男もいるし、女が男の性奴隷を買うこともよくある話だ。
あと、5歳ほど若ければ、あのケチャップマダムの若紫にされていただろう。
まだまだこれから多く事を学び、自分とは何かを問いながら悩みながらも青い春を満喫しているはずの青年。
(どうして、人身売買なんかに)
西の地方の訛りはあったが、言葉はしっかりしていたので、最低限の学はあるように思う。
生活が不自由そうなのは、もしかしたら、こうなった事で記憶を失っているのかもしれない。
下手に聞けば、記憶の傷を抉りかねない。
それに、こういったケースは、家族のもとに帰れるケースは稀で、帰れたとしてもそれが「幸せ」とは限らない。
そんな子たちをたくさん見てきた。
ここで働く使用人や料理人、庭師たちは、彼と同じような境遇にあった。
たまたま出会い、たまたま記憶にあった風景や名前を頼りにようやく見つけた「家族」に排除されて、ここに生活拠点を作っている者ばかりだ。
