第17章 17.
じいっ、と自身の腕に刺される注射針を見る侑士。
シリンジに溜まっていく赤い血。
針を抜くと、脱脂綿をしっかりとテープで固定された。
「これが、採血」
「採血...」
ゴム栓が付いた小さめの試験管に、注射器に取った侑士の血液を移す。
「この血を顕微鏡や専門の機械を使って調べるの。
それが『血液検査』。」
「なにがわかるんですか?」
「そうね、例えば白血球の数」
血を入れた試験管を、専用の遮光袋にしまった紫陽。
「感染症なんかに感染していると、その病原菌を攻撃するために白血球数が増えるわ。
あとは、腎臓の機能が落ちていないかや、糖の吸収、血管を硬くしてしまう成分が多くないかなんかを調べることができるわね」
器具と採血した血をまとめると、侑士に向き直る紫陽。
「今、侑士から採ったこの血を検査して、薬物の反応が出なければ、みんなのところに帰りましょう」
「っほんまですかっ?」
「もしも、万が一残っていたら、まだここで過ごしてもらう」
いい?と聞くと、わかりました、と侑士は背を伸ばして座った。
あ、と家の中を見渡す。
「どうしたの?」
「いえ...
ここも、悪くはなかったなぁ、て」
窓の外を見た。
「みんなに会えへんのは寂しかったけど、動物たちはかわええし、畑だけやったら知らんかった植物やキノコも知れた」
ゆっくりと立ち上がると、窓を開け、深く、空気を吸って吐くと、くるっと振り返って窓枠に腕をかけた。
「今は、薬草の匂いしかせへぇんけど」
外に干しているそれの香りを纏った風が、ふわり、と窓の白いカーテンを膨らませた。
「わっ」
それに包まれた侑士は、びっくりした、と笑っている。
落ち着いたカーテンから出てきた侑士に歩み寄り、手を伸ばす。
「ドクター?」
風で少し乱れた侑士の髪に触れた。
「どう、したん?」
きょとん、として見下ろしている彼の髪から手を離す。
「木の葉がついていたわ」
「え?ああ、すんません」
恥ずかしいわ、と照れ笑った侑士。
「みんな、元気しとるかなぁ?
俺ん事、覚えとるんやろうか?」
ちょっと心配やなぁ、と言う。
「忘れるはずないじゃない。
あなたは、わたしたちの、大切な家族よ」
「そうやったらええな」
無邪気な笑顔は、ここに来た時よりも、とても、幼く見えた。
✜