第15章 15.
ひっきりなしに、男女関係無く声を掛けられた。
(そんなに飢えるもんなんか...)
侑士には、そういった『欲』の部分が失せつつあった。
それを考えると、思い出すのはあの牢屋でのこと。
気持ち悪い、と顔を歪めた。
侑士の足元に座り込んでいた女が、連れらしき男に連れられて、ふらふらとした足取りで店に入っていった。
足元には、白い小箱があった。
何の柄もない白いだけの小箱は、一部が破れていた。
しばらくその箱を眺めていると、視界に、ぬっ、と出てきたのはブックマッチ。
それを差し出す人を見上げると、真っ白な紫煙を吐き、やるよ、と、それを揺らした。
「お、ありがとう」
それを受け取ると、何も言わずに通りの人混みに消えていった。
胸につかえる『なにか』に、手中の小箱一つとブックマッチ一つを眺める。
おもむろに、中の一本取り出した。
口に咥えて火をつける。
見様見真似で火をつけると、ゴホッ、と噎せた。
「ゲホッゴホッゴホッ」
身体にまとわりつく煙を払いながら、新鮮な空気を探して狼狽える。
「ゴホッゴホッケホッ」
咳を落ち着かせて深呼吸すると、ほんの少しを咥えて、ゆっくりと吸う。
「フーッ」
時折、葵が休憩に館の端で蒸すパイプを思い出す。
また、少しずつ数口吸うと、今度は噎せ無かった。
ふわ、と風に霞んで薄れゆく煙。
そのまま自分も消えてしまえればいいのに、とそれを吸い続けた。
少しずつ、みぞおちあたりが痛み始めた。
くら、とした頭に、ズルズルと座り込む。
フィルターの無いそれを、地面にこすりつけて消す。
しばらく俯いていると、すぐ向かいの酒場の裏口が開き、喧騒が路地裏にあふれ出た。
女将だろうか。
酒瓶が詰まった木箱をガシャン、といくつか持ってくると、それを積み上げて、店へとまた戻った。
ふらふらと立ち上がり、木箱を覗き込む。
詰め込まれた酒瓶の底には、まだ少し酒が残っていた。
おもむろに、青い瓶をつかみ上げる。
初めて見るその瓶のラベルには、「Gin」と書かれていた。
同じ瓶がいくつがあり、そのうちの数個に僅かな残りがあった。
酒独特の香りが残るその瓶。
一番たくさん残っていたその1本を煽ると、遠くに僅かな星が見えた。