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意志あるところに道は開ける

第15章 15.


頬を濡らしてたまるか、とシャツの袖で目元を擦る。

 シャツで拭きませんっ

「っ!」

頭に残る紫陽の声に、ゴシゴシと顔を拭う。

行く当てなどあるはずもなく、館を出た侑士は、畑を抜け、町へと繋がる道をひたすらに歩いた。

町のざわめきが聞こえるころには、涙は枯れ、脇道から人の多い通りの流れに身を投じた。
流されるままに歩く。
しばらくすると、いつもの市場を通り過ぎ、見知らぬ景色に変わった。

景色を見ることもなく、ただ、ただひたすらに歩く。


遠くから鐘の音が聞こえ、帰る時間だ、と頭は理解したが、足は少しでも館から離れる道を選んでいく。
明るかった通りは少しずつ光を灯し、無意識に、それらが少ない通りに入り込んでいた。

そこら中から、キッチンで使うコニャックの香りがしている。

大きな物音を立てて、酒場から男が転がり出てきた。
通りに倒れ込む男。
ムクリ、と起き上がると、据わった目で侑士を見た。
少しぼんやりとしたその目に、ムッ、とする。

「なんやねん」

腹立たしく感じだその視線を睨み返すと、ああん?と無駄に大きな声でふらり、と男は立ち上がった。

「見ねえ顔だなぁ、あんちゃん」
「俺はアンタ、知らんわ」
「んー?西訛りだなぁ」

ニヤニヤと笑う顔を、やったらなんやねん、と睨む。

「そないにおかしいか?
 せやったら笑っとけや」
「いやぁ、その口調でそんなナリってのが珍しくてなぁ
 この辺りであんちゃんみたいな話し方をする奴ぁ、たいがいが『色売り』さぁ。
 格好を見るに、そうは見えねぇなぁ」

そう言うと、見ろよ、と侑士の後ろを指さした。

「たいがいは、あんなんさぁ」

酒屋と酒屋の隙間。
酒樽や木箱が積まれた細い路地に、人影があった。
目を凝らすと、男が2人、そこにいた。

妙に近い二人の影が重なる。

一人は、酔っぱらいと同じような、白のシャツに濃い茶色のズボンを履いていたが、壁側を押し付けられている男は、マントのような羽織を着ていた。
マントの中に潜り込んだシャツの男。
建物の壁に背を預け、喉を逸らす男の身体が揺れている。

「大概、色売りは『色街』の女の口調を真似すんだ」

色を売っているよ、と知らせるためにな、と、酔っ払いは尚も、酒を煽った。

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