第14章 14.
病院のバス停で携帯を開く。
写真と動画のフォルダを開き、大学の講義や教科書の写真をスクロールしていく。
一つの動画を開いた。
少し手ぶれている画面の奥に、大学内のベンチに座って本を読んでいる彼。
徐々にズームされ、画面の中で彼が顔を上げる。
-気づいたかな-
私の声が入っていて、彼は手元の携帯を見ている。
電話だろうか、画面の中の彼が耳に携帯を当てて顔を上げた。
「あ、」
画面の中の彼と目が合うのと、彼からの着信を知らせる音が鳴るのが同時だった。
笑いをこらえている私の声と、荷物を手にこちらへ向かってくる彼。
=バレたっ=
=バレるもなんも...
そないにわかりやすぅ撮っとったら気付くわ=
=あはは=
=いつまで撮りよるんや=
少し照れたような、恥ずかしそうな顔の彼で数秒の動画は終わった。
一つスクロールすると、一人暮らしの私の部屋にいる彼。
=ええよ。
せやったら車、西側ん通りのコンビニに...=
こちらを見て、撮られていることに気づいたのか、あ、という顔の後、いつもの「しゃあないなぁ」の笑顔で背を向けた。
「っグス」
そんな、なんでもない数秒の動画や、デート先での写真。
たまにある料理の写真は、一緒に食事をしたレストランや彼が作ってくれた夜食やご飯が並ぶ食卓。
ゆり
低く、優しい声で呼ぶ彼が、記憶のなかで笑った。
「っゆっ、くん...」
携帯の中。
彼とのトークルーム。
-バイト終わったら連絡するわ-
映画館でアルバイトをしていた彼が、今度公開になるらしいで、と持ってくるフライヤーはラブロマンスばかりだった。
その殆どを一緒に見たし、受け取ったフライヤーは、半券とともにファイリングして取ってある。
最後のやりとりは、送信した-今日、バイト?-。
それに既読は無く、何度かの通話マークには「応対無し」。
「どこにいるの?ゆっくん...」
最後に彼を見たのは、大学の後、彼のアルバイト先である、商業ビルの映画館の前。
「もう少し一緒にいて」とわがままを言った私に、「ほな、ちょっとだけな」と、コーヒーショップでドリンク1杯分の時間をくれた。
夜、電話するな
そう言って、私の髪を撫でて映画館へと向かっている背中。
彼から、その後、連絡は無かった。
✛