第27章 【脹相】へる日々
それなのに口から出てきた感想は
「…甘いな」
だった。
きっともっと何か言いようがあったはずだ。
しかし、この一口は今まで摂ってきたどんな食事より甘くて、甘くて、甘く感じて、それがそのまま口から出てきてしまった。
メレンゲを泡立てる時にあれ程砂糖を入れているし、クリームにだって砂糖は入っているのだから甘いのなんて当たり前なのに、脹相の言葉を聞いた八重はハッとして自分の分のケーキを切り分けると急いで口に入れた。
「…確かに甘いですね。五条さんは甘い物がお好きだと仰っていましたがこれでは甘過ぎますかね…」
そうして八重は「このレシピは甘酸っぱい苺を乗せること前提で甘めに作られているのかもしれない…」とか「五条さんはきっとケーキ一台食べてしまうだろうからもっと甘さを抑えた方が…」とか脹相そっちのけでブツブツとケーキの考察に入ってしまった。
自分の『甘い』という一言を受け止めて、そこまで思考しようとするのだから余程このケーキにかける思いは一入なのだろう。
そんな八重を尻目に脹相はもう一口ケーキを口に入れた。
一口目よりも甘さが気になることはないがやはり美味しい。
きっとこの甘さでも五条は1ホール食べるだろうなと思いながら渡されたケーキを平らげる。
その間に一通りの考察を終了させた八重はやる気に満ち溢れた瞳を爛々と輝かせて今後の試作の配合などを紙に書き留めていた。
「まだケーキを作るのか?」
「はい。もう少し甘さ控えめにしたいのですが、砂糖の配合を変えると膨らみなどに影響するのではないかと思われるので試作してみなければいけません。ただ作れても一日一台です」
「そうか。ならば、明日以降もメレンゲは俺が泡立てよう」
「え!?」
それまで熱心に紙に何やら書いていた八重の顔がバッと上がって脹相を見る。
瞳は未だに輝いている。
「よろしいのですか!?」
「あぁ。さっきのでコツはだいたい掴んだ」
「ありがとうございます!」
本当に嬉しそうに微笑むものだからそちらを見ることもできず、視線は調理台のケーキに向かった。
「このケーキの残りはどうするんだ?」
「あぁ、これは私が責任持っていただきます」
「そうか。俺にももう一切れくれ」
皿を差し出せば笑顔でケーキを乗せられる。
結局ケーキの半分ほどは脹相が食べた。