第27章 【脹相】へる日々
脹相は八重の淹れてくれたほうじ茶の湯気をしばらく眺めて一口飲んだ。
香ばしい良い香りと風味が身体に落ちていく。
腹の底が温まると不思議とそこで蠢いていた嫌なものが落ち着いていくようだった。
ようやくいつも通り息をつくと、目の前でせっせと支度をする八重を見る。
いつも八重は「朝は簡単な物ですみません」と口にしているが、そんな『簡単な物』でもこの大人数の分となるとかなりの手間であろう。
八重からするとそれでも昼食と夕食は高専の職員にも手伝ってもらっているからと謎の謙遜をしているが、それとこれとは別問題である。
そんな八重の邪魔をするようで悪いが、それでも何となく茶だけ飲んでいるのも憚られた脹相は
「昨日は五条にケーキは渡せたのか?」
と質問していた。
もちろん渡せていることなど知っている。
そこから八重の反応を見たかった。
八重は手を止めずに微笑む。
「はい、とても喜んでいただきました。『人生最高の誕生日』などと世辞までいただいて…これもひとえに脹相の協力があってこそです。ありがとうございました」
それまで支度しながらだったのに、最後の方ではちゃんと手を止めて脹相の方を見ながら笑顔で言ってくれる。
そんな何でもない行動一つ一つに心臓が軋む。
脹相は返事もせずにお茶を一気に飲み干すと立ち上がった。
「食堂に運ぶものはあるか?」
今はそのくらいしか手伝ってやれない。
「よろしいのですか?では、こちらを…」
依然なら手伝いを申し出れば遠慮されていたのに、最近はすんなり任せてもらえる。
笑顔で礼を言われる。
日々の積み重ねは着実に関係を変えているのは五条だけじゃない。
そう思わせてくれる。
気づけば脹相は厨房と食堂を何度も往復し、しっかり朝食の準備に貢献していた。
「脹相のおかげでいつもより早く準備が終わりました。ありがとうございます」
「終わったなら少しお前も休め」
「いえいえ、私は洗濯物が」
「もう一杯茶が飲みたい」
八重の言葉を遮ってそういえば困ったように笑ってお茶の支度をする。
「お前も一杯くらい付き合え」
「はい、そうします」
今度は嬉しそうに笑って。
その日から脹相が朝食の準備を手伝って、浮いた時間に二人で茶を啜るという新しい日課ができた。