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【呪術廻戦】誰も知らない

第27章 【脹相】へる日々


「脹相は受肉した日。私は…そうですね、あなたに名前を呼ばれた日でどうでしょう?」

案外いいかもしれない。
脹相はそう思った。
自分の誕生日が受肉した日というのはまぁ妥当だろう。
それ以上に八重の誕生日が脹相が初めて彼女の名前を呼んだ日。
“自らの起源”を失った八重に失った名前を、彼女の起源の一部を返せた日。
八重の誕生日に脹相自身が絡んでいるのも悪い気がしなかった。
その日、八重に祝いの言葉を口にするのはまだ一年近く先のことである。
それでも、その日、その言葉を聞いた八重はどんな表情をするだろうか。
それを考えただけで胸が温かくなる。
きっと八重もそんな気持ちで脹相の誕生日を決めてくれたのだろう。
そう思ったのだ。

「私はその日、あなたの誕生日の日、どこにいてもあなたの幸せを願います」

そんな慈愛に満ちた八重の言葉が更に心を温める。
それなのに、どうしてだろうか。
何かが胸に引っかかった。
こんなに優しい言葉なのに、どうしてストンと落ちてこないのか。

「…そうか」

それだけ返事をすれば八重はニッコリと笑う。
そして、再び視線はケーキに戻して見つめ始めた。
そんな八重の横顔をしばらく見つめる。

(俺の誕生日にもケーキは焼いてくれるのか?)

ふとそんな子供じみた考えが思い浮かんだが口にはしなかった。
脹相も遅れてオーブンの中に視線を戻す。
型に入った生地は先程よりも膨らんで、これから更に膨らむのだと思われる。
それを二人で黙って見つめてる。
型の嵩まで膨らんで、今度は色づき始めて、そうしてこんがり焼き上がったスポンジ。
八重はとても嬉しそうにオーブンから取り出した。

「あとは冷まして飾り付けをするのですが冷めるまで時間がかかるのです。ですから、脹相はもう戻ってください」

そう告げられれば戻らないわけにはいかない。
もう脹相が作ったメレンゲはケーキになってしまって、そのケーキは他人の口に入るのだ。
そんなことを考えていたのに。

「脹相、夜になったら出来上がったケーキの味見をしていただけませんか?」

どうやらこれも練習のケーキらしく、自分には味見役という大役がまだ残っているようだ。

「わかった。また夜に来る」

そうして心置きなく離脱することができた。
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