第27章 【脹相】へる日々
その後も二回に分けて砂糖を入れて泡立てると、それまでとは比べ物にならないくらい膨らみ始める。
「こんなにも膨らむものなのか?」
八重曰く、なんでも砂糖が泡立つのを助ける作用をしているのだとか。
ボウルの中にはツヤツヤと光るキメ細かいメレンゲ生地が出来上がっていた。
「…すごいです…こんなに完璧な“めれんげ”は初めてです…」
それまでどれ程の試行錯誤をしてきたのであろう。
出来上がったメレンゲに目を潤ませ、合掌までし始める八重の喜びように、脹相は思わずフッと破顔した。
「もういいのか?」
「はい。あとはこれに卵黄を混ぜていくのですが、その作業に力はいりませんので」
レシピ本に目を走らせながらそう言うと、脹相の方に向き直った。
「脹相、お力添えいただいてありがとうございます。今回のケーキはきっと上手に膨らむと思います。本当にありがとうございます」
深々と頭を下げてから本当に嬉しそうに顔を綻ばす八重に一瞬言葉が出てこなかった。
「…もういいのか?」
かろうじてそう口にしたが、八重は「はい、お手を煩わせて申し訳ありませんでした。脹相は鍛錬などでお忙しいのに」ともう次の作業の準備を始めていた。
「…まだ時間がある。この泡がこの後どうなるのか見届ける」
鍛錬がないわけではない。
しかし、鍛錬というものはやろうと思えば終わりはない。
しばしの休息だって必要でもある。
もちろん自分が作ったメレンゲがどのような変化を遂げるのかが気になるというのもある。
そんな理由をこねてでも何故だかもう少しだけこの空間にいたかった。
八重は笑顔で了承してくれた。
その後八重はメレンゲに卵黄を混ぜたり、粉を混ぜたりし始めた。
これからの作業ではメレンゲの泡を潰さないのが鍵なのだと説明された。
その言葉通り、作業は繊細に進められ、脹相の剛力などは不必要の長物のようだった。
それでも、自分が泡立てたメレンゲが八重の手でケーキの生地として仕上がっていくのを隣で見ているのはとても興味深かった。
そうして円形の型に生地を流し入れ、トントンと数回型を作業台に打ちつける。
「あとはこれを“おーぶん”で焼くだけです」
オーブンの中でオレンジ色の光に照らされる型を八重は愛おしそうに眺めていた。