第27章 【脹相】へる日々
「すごい!脹相!上手です!」
両手を合わせて心から感動している八重を見れば悪い気はしない。
「そうか。じゃあ、このまま俺がやるからお前は他のことをしていろ」
緩みそうになる口元を隠すようにぶっきらぼうにそう言っても八重は少しも表情を曇らすことなく返事をし、礼を言い、違う作業を始める。
チラリと横目で見れば粉をふるいにかけていた。
しばらくの間、二人とも無言で作業を続ける厨房にはシャカシャカと泡立てる音とトントンとふるいを振るわす音だけが響いた。
八重は粉をふるいながらもチラチラとボウルの中を気にしている。
そして、ボウルの中身が少しずつ白っぽくなってきたのを見るや否や八重が「あ!」と声を上げるのでビタリと手を止める。
「…どうかしたか?」
表面上は平静を装ってはいるが、内心は自らが何かやらかしたかと気まずさを感じている。
しかし、八重が微笑んでいるところを見ると何か失敗したわけではなさそうだった。
「次はそこに三回に分けて砂糖を加えて、その都度よく泡立てていきます」
そう言うとボウルにサラサラと砂糖を入れた。
「これが砂糖なのか?」
見知った砂糖とは様子が違うものに脹相は思わず尋ねてしまった。
「はい、これは“ぐらにゅー糖”という砂糖とのことです。普通の砂糖とは精製方法が違うらしいですよ…あ、また泡立てをお願いします」
促されて再び手を動かし始める。
泡立ち始めた液体の上に乗っていたグラニュー糖はすぐに混ざって見えなくなった。
その様子を八重は穏やかに眺めている。
「この砂糖、本当に美しいですよね、一粒一粒がキラキラとしていて。真っ白な砂糖を見た時ですらとても驚きましたが、この砂糖を目にしてこのような物を作る人たちには頭が下がる思いです」
たぶん昔は砂糖自体が貴重で色もこれほど綺麗ではなかったのだろう。
八重は昔を懐かしむでもなく、蔑むでもなく、ただ目の前の物の背景にある人に思いを馳せる。
きっと一事が万事そうなのだろう。
いつだって人のことしか考えていない。
このケーキだって、五条のために何日も費やしている。
それも、義理や喜ばせたいからとかではなく、ただ「お誕生日なのだから」という一言でやってのけてしまう。