第27章 【脹相】へる日々
その言葉に脹相は身体が石化した如くビシリと固まるのを感じた。
現代の誕生日では祝いの席にはケーキが準備されることを脹相は器の記憶で知っている。
しかし、それを八重が知っているとは思わなかったし、ましてはこんなに何日もかかって試作しているとも思わなかった。
その事実が何故だが脹相の動きと思考を止めた。
しかし、そんなのは知る由もない八重は
「本当は卵と砂糖を混ぜて泡立てなければいけないのですが、なかなか上手くいかず…卵の黄身と白身を別々に分けて泡立てるという作り方があるという書物を読んで試していたのですが、それもなかなか骨が折れる作業でして…」
と、脹相が聞いても理解のできないような作り方の話をつらつらとして、再び泡だて器を忙しなく動かし始めた。
作業台に開かれた本には各工程ごとの写真も載っており、それを見て察するに写真の状態に泡立てるまでは程遠そうな印象を受けた。
八重はしばらく泡立てていたが少しずつ動きが悪くなり、そして止まる。
泡だて器を離して持っていた手に血を通わせるように軽く振っている。
その一連を何も言わずに見ている脹相の視線に気付いた八重は恥ずかしそうに少し微笑む。
「不老不死というのに非力でしてお恥ずかしい限りです…こういう時に脹相のような力強さがあればと思ってしまいます」
そう言って泡だて器を再び握る八重の横顔を見ていたら脹相の口は自然に動いていた。
「ではその作業、俺がやろう」
「え…?」
突然の脹相の申し出に驚いてその顔を見つめる八重の手からボウルと泡だて器を取る。
脹相としては特に何を思ったわけではない。
八重を喜ばせようとしたわけではないし、恩を売ろうと思ったわけでもない。
ただ、自分の力を欲するような作業なら自分がやればいいという至ってシンプルな考えであった。
しかし、八重から道具を取り上げて泡だて器を握りボウルの中身をかき混ぜてみたものの、どうにも上手くいかない。
まず、泡だて器を動かしてもボウルの中の液体へ思ったように力が伝わらない。
ガチャガチャと大きな音が立ち、中の液体はボウルの中で方々に散らばり、下手すればボウルの外まで飛び散りそうな勢いであった。
(む…これは…コツがいるな…)
手を止めて、泡だて器をしげしげと見つめる。