第27章 【脹相】へる日々
「おーい、脹相ー」
すぐ近くで虎杖の声がして、脹相はハッと意識が内側から戻ってきた。
声をした方を見れば虎杖は校舎端入ってすぐの階段に腰掛けていた。
「悠仁…」
しばらくそこに座っていたのだろう。
自分の膝に肘を立て頬杖をついて、半場呆れたような表情を浮かべている。
「あのさ、さっきから同じところグルグル歩いてっけど、どうした?」
「む…?」
「俺が来てからもう三周はしてるよ」
「そうか…?」
脹相は思わず窓の外に目を向けてからぐるりと周りを見回した。
なるほど、確かにこの景色は何度も見たように感じた。
しかし、最愛の弟にも気付かずその目の前を三度も通り過ぎていたとは兄としては如何なものかと脹相は伺うように虎杖の見たのだが、当の虎杖はというとそんなのは少しも気にしていないようで、むしろその視線に苦笑いを浮かべた。
「声かけようかと思ったんだけどなんかすげー顔して歩いてるから…でも、そろそろミーティング始まるし」
「そうか、気を遣わせたな。すまない」
そう謝る脹相の表情は虎杖の気遣いに対する申し訳なさとは別にそれ以外の感情で曇っているようにも見える。
「…考え事?」
脹相のそんな顔を見てしまえば虎杖もそう訊かないわけにもいかなかった。
脹相はしばらく沈黙した後で「…あぁ」と何とも歯切れ悪く答えた。
「五条先生のこと?それとも八重さん?」
「……」
脹相が反応しないのが何よりの返答だとばかりに虎杖も声は上げなかった。
もともと口数の多くはない脹相であるが、それでも黙って待てば内心を語ってくれないわけでもないことは長くない付き合いの中で虎杖もわかってはいた。
だから虎杖は口数と一緒で乏しい表情が変わるだろうかとこちらに視線も向けない脹相の横っ面を見つめていた。
「…俺は八重にどうなってほしいのかと考えていた」
「うん」
「俺は八重に八百比丘尼も九相図も何も背負わず、幸せになってほしいと思っている」
「うん」
「八重は人の中で生活している方が活き活きしているように見える」
「まぁ、だな」
「だから、悠仁と共に生きていってほしいと思っている」