第27章 【脹相】へる日々
食堂を去った脹相は庭の片隅に座っていた。
目の前には皺一つなく伸ばされた洗濯物が整然と並び、風に揺れている。
どれも遜色なく美しい。
(あれのどれを八重が干して、どれを五条悟がやったのかも俺にはわからん…)
きっと繊細な力加減が必要なのだろう。
脹相がやれば変に伸びてだらしなく垂れ下がる様が容易に想像できた。
(俺は八重に何もしてやれない…)
せめて八重の憂いの一因にならないように身を引くことしか思いつかない。
(一緒に…いない方がいいのか…?)
そうすれば自分のへそ曲がりで八重が困ることもないし、何より脹相自身が自分の中の理解できない感情に目を向けなくてよくなる。
しかし。
(できるのか?そんなこと…)
150年間、常に側に感じていた八重の気配を手放すことなんてできるのだろうか。
脹相には想像ができない。
生まれた時からそこにあるものがなくなるなんて。
想像しようとするだけで内臓が掴まれるような感覚を覚える。
弟を失うのとはまた違う、よくわからない感覚。
「脹相…」
名前を呼ばれれば胸がざわつく。
声を聞けば胸が高鳴る。
目が合えば少しだけ顔が緩みそうで、急いで引き締める。
笑みが見れたなら胸が温かくなる。
そんなものを手放すことが。
「脹相…?」
脹相はハッと我に返った。
そして隣を見た。
八重が隣に正座している。
あまりに自らの内に入りすぎて、すっかり八重の気配に気づかなかった。
「悠仁くんが脹相はまだ朝食を食べてないはずだから…と」
八重の膝には盆が乗っていて、その上にはもう見慣れた八重に取り分けられた朝食。
驚いた脹相の視線が八重の顔と朝食とを行ったり来たりしているのに対して八重はクスリと笑った。
脹相にそのように笑いかけることは八重としては珍しい。
「悠仁くんが、脹相は何かあるとどこかで膝抱えて座り込んでる、と教えてくれたのですが…本当だったんですね」
確かに、今も脹相は知らず知らずに膝を抱えていた。
躯体の大きな脹相が膝を抱えて小さくなってる様。
それは笑えるだろうなと気付いた脹相は慌てて膝を倒して胡座をかいた。
「…向こうは大丈夫なのか?」
笑われたことが気まずくて視線を外す。