第27章 【脹相】へる日々
食堂に着けば脹相の思った通り、そこにはまだ誰もいなかった。
ただ、食事はもう準備されていて食堂中いい香りで満たされていた。
その香りを嗅げば心が満たされるはずなのに、今の脹相にとってそれは八重が一生懸命働いた痕跡としか捉えられず思わず眉に力が入る。
それでも用意されたおかずを見渡す。
定番のおかずは毎日あって、納豆などの市販品をそのまま使っているのもあるが、目新しい料理もあるところを見ると八重は毎日少しずつ違う料理に挑戦しているようだ。
図書室で料理の本を読んでいる、という昨日の話も取ってつけたものではないようだ。
それでも、この量を夜が明けてから用意したとなるとやはり八重は無理をしているのではないかという結論に至ってしまう。
脹相は近くの椅子にドカリと座った。
もうすぐ虎杖が八重を連れてくる。
どんな顔をして出迎えればいいのか、どんな言葉をかけるのかを嫌でも想像してしまう。
(挨拶は八重からしてくるだろう…)
昨日の様子だと八重は少し気まずそうに「おはようございます…」と言ってくるかもしれない。
(それには普通に返せばいい)
いつもなら次は「今日は何を召し上がりますか?」と言ってブュッフェスタイルの朝食を皿に盛りながら脹相の分を取り分けてくれる。
(今日は「自分でやる」と言ってみるか…)
八重は驚くかもしれないが、すぐに微笑んで盆に皿と箸を乗せて脹相に手渡してくるだろう。
(今日、初めて並んだ品について訊いてみるのもいいか…?)
脹相が「これは何だ?」と尋ねれば八重はきっと嬉しそうにどんな料理なのか答えてくれるはずだ。
(食べ終わったら「美味かった」くらい言ってやればいいだろう…)
今まで一度も言ったことはないから脹相のそんな言葉を聞いたら八重は静かに感激するかもしれない。
(片付けは……任せるか…)
昨日の今日だ。
あまり八重の領域に踏み込みすぎてはいけないのてはないかと脹相は思った。
少し八重がやりたいようにやさせてやるのもいいのかもしれない。
それで、消耗するようならば手なり口なり出せばいい。
ちゃんと見ていてやればいい、と。