第26章 【五条】永遠のコ
僕はそのまま部屋を出た。
後ろ手に閉めたドアはひどく大きな音を立てたけど、今はそれどころじゃない。
八重、今どこにいる?
コンッ
僕の内で小さな音がした。
今まで当てもなく転がっていた僕の内のガラス玉が急に意志を持ったように転がり始めた。
先程大きく脈打った心臓はスピードを上げることなく、けれど打つ強さはさっきのまま胸を叩くようだ。
八重がいるであろう場所に向かって歩き出す。
今の時間、八重はどこにいる?
スケジュールはだいたい把握してる。
大丈夫、いつも通り仕事してるさ。
そう頭ではわかっているのに歩く速度は次第に速くなる。
何だ?
僕、今、焦ってるのか?
いやいや、八重の特殊性に目をつけられることなんて想定内だろ。
思ってたより早かったってだけで、何も焦るようなことじゃない。
大丈夫、今から何とでもできる。
とにかく、今は八重との接触だ。
転がり始めた玉も、僕の足も、止まることはない。
八重と出会って、何度も一緒に洗濯を干した庭。
八重はいない。
ここで八重と手を合わせた。
あの時は単なる興味だった。
六眼にも映らない。
無下限も突破してくる。
そんな八重を面白いと思った。
コトン。
八重が料理するのをずっと眺めてた調理場。
ここにも八重はいない。
ここで八重はプリンを作ってくれた。
まだ会ったこともない僕の為に何冊もお菓子の本を抱えて、初めて作ったプリン。
美味しかった。
それから毎日おやつを作ってくれた。
それが毎日の楽しみだったな。
カタン。
八重に僕の正体を明かした食堂。
やっぱり八重はいない。
八重のあんな声聞いたのは後にも先にもあの時だけだった。
最高に面白かったな。
八重にくっついて脹相のこと煽ったりもしたっけ。
アイツの反応にはモヤッとしたけど、それでもアイツに出来ないことをやってる優越感はあった。
トン。