第26章 【五条】永遠のコ
それからも八重との接触はそれまで通りに続けていた。
今まで通り、のつもり。
でも、なんか違う。
触れた時の八重の反応もいつもと変わってない。
相変わらず平然と受け入れるし、拒絶もされない。
特別扱いだってもちろんされない。
でも、違う。
八重に触る時、「触った」じゃなくて「届いた」って感覚に変換されてる感じ。
なんかいちいち特別な感じ。
心地がいい。
なのに、妙に居心地が悪い。
それでも、やめる気にはならなかった。
ある日、調理場から甘い匂いがしていた。
僕は吸い寄せられるように調理場に入っていくと、そこにはもちろん八重。
一生懸命ボウルの中身をかき混ぜていて、僕が入ってきたことなんて気づいていない。
「八重〜?」
いつもなら後ろから目隠しとかハグとかしてるところだけど、八重があまりにも一生懸命作業してるからそこは邪魔しないように作業台に手をついて八重の背中に身を寄せるだけにしておいた。
「ふぁ!ご、五条さん!?…っどうしましたか?」
ん?
僕が急に現れるのも、こんな距離もいつものことなのに今日はやけに慌ててる。
「いやー、いい匂いがしてるから今日のおやつは何かなー?と思って」
「き、今日は“ばばろあ”を作ってあります。この匂いは…お出しするものではなく…洋菓子の練習で…まだ上手にできておらず…」
「へー、八重、いつもなら初見で何でも作っちゃうのにめずらしいねー」
「はい、洋菓子の世界も奥が深く…何回か練習しなくてはいけないようです」
「上手く出来たら僕に食べさせてくれる?」
「いえ…それは…あの…」
こんなに歯切れの悪い八重は初めて見た。
ホント、隠し事とかに向かない性格なんだよね。
誰のためにそんなに一生懸命になってるのかなんて考えたくもないから、これ以上は聞かないでおいた。
「じゃ、ババロアだけもらっていくよー」
僕は冷蔵庫からババロアを3つ取った。
いつもなら八重に「一つにしてください」って注意されるけど、知ったこっちゃない。
誰かにババロアが行き渡らなくたって僕は今ババロアをガツガツ食べたい気分だから。
そして1週間以上たっても八重が練習していたお菓子は僕に提供されることはなかった。
…まぁ、別にいいけど。