第26章 【五条】永遠のコ
しばらく八重を追いかけてると一日のスケジュールと所在場所はだいたい把握できた。
夕食の片付けが終わって、だいたい皆が浴場を使い終わるまでの間が実質八重の休憩時間みたいなもので、その時間は図書室で本を読んでることが多い。
だから今日も僕はその時間、図書室に向かった。
予想通り、八重は図書室の窓辺。
図書室の照明はつけないで手元だけを読書灯で照らして静かに本を視線を落としている。
あぁ、絵になるな。
なんてのはたぶん誰でも抱く感想だと思うけど、僕はそんなのに見惚れたりしない。
「よ、八重。今日は何読んでるの?」
「あ、五条さん」
そう言って八重が本から視線を僕に移す瞬間が僕のお気に入り。
明るい手元から暗がりから近づく僕なんてすぐには見えるワケがないのに声だけで僕だと認識して返事をしてくれる。
これだけは接触増やした成果かな。
「今日はこれです」
八重が見せてくれた本の表紙には『猿でもわかる哲学』とポップな書体とご機嫌な猿のイラストが書かれている。
僕は思わず吹き出した。
どうしてこれを手に取ったんだか。
「いつも料理本なのに今日はなんでこれなの?」
笑いを噛み殺しながらようやくそれだけ訊いた。
そしたら、今度はたぶんさっきまで読んでいたであろうページを開いて見せてくれた。
「これが知りたくて」
ページのタイトルに『アキレスと亀』。
あ、これって。
「五条さんの術式を説明していただいた時に教えていたどいたものなのですが、お恥ずかしながら私は知りませんでしたので」
本当に知らなかったことが恥、とでもいうように視線を下げる八重の姿に一瞬だけ僕は動きを止めてしまった。
けど、すぐに八重の隣に腰をかける。
「そんなの僕に訊いてくれればいくらでも教えるのにー。僕、一応教師だからね」
「五条さんはお忙しい方ですし、何も知らない状態からではなく少しでも知識を入れて、その上でわからなければ教えを請おうと…」
え、何このコ。
めっちゃ良いコ。
今すぐ僕の生徒になってほしい。
「ホント、八重って学ぶ姿勢が脱帽ものだよね。で、本読んだだけでわかった?」
「はい、だいたいの考え方は」
「ふーん。で、それ知って、八重はどう思ったの?」