第26章 【五条】永遠のコ
そんな時間を終わらせるのは惜しいと思う自分がいる一方で、知らないことを暴くヒントを探しているのも確かで、何の気なしを装って会話に織り交ぜる。
「あ、そうそう。昨日、彼も良い反応だったよねー、あの九相図」
そしたら、どうだ。
手を止めた八重の様子が明らかに変わる。
柔和な雰囲気が引いていき、空気がピンと張り詰める。
「……です」
始め、雰囲気の変化に意識が向いていて八重が呟いた言葉がわからなかった。
「ん?」と聞き返しながら八重の真顔を覗き込む。
「九相図じゃありません。彼は脹相です」
まっすぐ僕の目を見て、冴えた声で。
すぐに本人がビックリしたみたいな顔して謝ってきたけど。
(あぁ、なんだ)
八重が九相図に抱いている感情は何も罪悪感だけってわけじゃないのか。
「そうそう、脹相って名前だった。彼、渋谷で戦った時より随分丸くなっちゃってさー。見違えちゃったよ……あれ、君のおかげ?」
八重はぽかんとした顔をしてから、「それは悠仁くんのおかげ」って笑って言っていた。
そんな訳ないと思うけどね。
その後も二人で洗濯物を干しながら話をした。
八重は、
「“ぷりん”以外にもお好きな甘味はありますか?」
と訊いてきた。
なんでもプリンを作ったのが楽しかったらしい。
正直、甘けりゃなんでもいいんだけど、せっかく八重が作ってくれるなら食べない手はない。
出来れば手の込んだやつ。
でも、僕だって作ったことがあるわけじゃないからどんなお菓子が手の込んだものかはわからない。
だから無難に。
「ケーキとかシュークリームとかかなー」
そう答えると、
「今度作り方を調べてみます」
クスクス笑っていた。
すっかり僕のことお菓子が大好きな子どもかなんかだと思ってるみたいだ。
そうしているとあっという間に干すべき洗濯物はなくなった。
(あーあ、終わっちゃった)
もっとも、洗濯干しが終わったくらいでなんでこんなこと思ってんだか。
八重は礼儀正しく頭を下げるとまだまだ働く気満々らしい。
ホント、働くことが好きなのか。
それとも働くことで何か得ているのか知らないけどさ。
「働き者だねー」
そんな軽口を叩いてから、ここからが僕の本題。
八重に僕の右手を突き出した。