第25章 いとほし日々[後編]
「…それは」
「いいよ、言わなくて。むしろ、もう誰にも口にするなよ。自分で自分の首を絞めることになる」
五条の真剣な眼差しが事の深刻さを物語っている。
これほどまでに大事になるとは思ってもみなかった。
これほどまでに自分以外の誰かに危機感を抱かせることだとは。
顔が強張る八重に気付いたのか、五条は軽く息を吐いた。
やれやれと言った風に目の周りから力を抜く。
「まぁ、八重はさ、とりあえず、今まで通りに過ごしてて。あ、あのおじいちゃんには気に入られといた方がいいよ。八重のてんぷら、超気に入ってたし、胃袋掴んどきな。あとは、まぁ、僕の特級の融通(ワガママ)でどうにかしてあげるよ」
そして、いつものようにニッと笑う。
「あ、でも、僕が死んじゃったらその時はゴメンね」
いつもの不敵な笑みなのに、その瞳には悲しさとも切なさともつかない色があって。
「…いえ、そんなことは……」
八重は言葉を続けることができなかった。
八重はそんな様子なのに、
「ま、それはいいとして。こっからが今日の本題なんだけどー」
五条はひょいっと軽快に机から降りると八重に歩み寄る。
それは手の届く距離になっても止まらない。
そのまま五条の胸にぶつかるのではないかと思うくらい近くに来ると、五条は壁に肘を付き、覆い被さるように八重を囲った。
額と額がつきそうなほど近づき、垂れた五条の白髪が八重の前髪を揺らす。
八重は不思議そうな顔をして五条を見上げている。
「こういうことされて、どう思う?」
五条はいつになく妖艶に微笑んでいる。
丸い瞳の八重が碧眼に映っている。
「えっと…今日はより一層近いですね」
「それだけ?」
「あとは…」
八重は五条の瞳を見つめたまましばらく考えると、
「…どうして今日はそんなに焦っているのですか?」
少しだけ眉を下げて心配そうにそう言った。
「いつも五条さんの感情はほとんどわからないのですけど、今日は何やら感情が忙しい感じがします」
五条の瞳はいつもと変わらぬ美しい空色なのに、そのさらに奥ではいろいろな感情が混ざり合い、定まらない。
五条は溜息をついた。
「八重ってさー、なんでそうやっていっつも人のことばっかなのかな」