第25章 いとほし日々[後編]
「あの…五条さん、どうしましたか?」
廊下をしばらく進んだところでようやく思考を取り戻した八重は身体を起こして五条の顔を振り返りながら尋ねたが五条の顔を見るまでには至らなかった。
「八重の正体、もう総監部まで知られてるよ」
声のトーンはいつもと変わらないのに軽薄さを感じさせない五条の様子と話の内容に八重は身を固くした。
「え?なんで…?」
「わかんない?最近、その話した人、いたでしょ?」
思い当たるのは一人しかいない。
「…三輪さん…?」
「そう。あ、でも勘違いしないで。あの子、基本的に良い子だからわざとじゃない。悪気もゼロ。めちゃくちゃ凹んでたよ」
「それは申し訳ないです。今すぐ『大丈夫です』とお伝えしなければ…」
八重は五条の身体に腕を立てて身体を離そうとするが、そうはさせまいと五条は八重を抱える腕に力を込める。
「あー、今すぐはムリ。僕が先だから」
気付けば皆が修練に使用している部屋からかなり離れた人気のない棟に来ていた。
長い廊下に物音一つしない教室がズラリと並んでいた。
五条はその中の一つの扉を開けた。
もちろん人なんかいなくて、そこで漸く八重は下ろしてもらえた。
刹那は入口を入ってすぐの壁の前に立たせると、五条は近くの机に腰かけた。
「あのさー、八重。今の状況わかってる?」
「?」
「総監部は今のゴタゴタが落ち着いたら八重のこと特級秘匿物として管理しようとか考えちゃってるみたいなんだよねー」
五条はめんどくさそうに後頭部をボリボリと掻いた。
八重は聞き慣れない言葉に頭の中で五条の言葉を反芻すると、それがそのまま口から出ていた。
「…特級…秘匿…物……?」
「そうそう。まぁ、不老不死の人間なんて誰も放っておかないよね。わかってるでしょ?テイのいい実験体にされるよ」
「……」
「それに、八重にしかできないこと、他にもあるでしょ?」
五条には八百比丘尼であることは言ってある。
不老不死であること、1000年生きていることを伝えてある。
しかし、『寿命の分与』や『事象の拒絶』のことはもちろん言っていない。
八重は六眼には映らないと言っていたのに、どうしてそのようなことを知り得たのかはわからない。