第25章 いとほし日々[後編]
「あ…えーと……」
向けられる純真に輝く瞳を八重は無碍には出来なかった。
「実は……150年前まで八百比丘尼と名乗っておりまして……」
小さい声でそう伝えたのに、三輪は「えー!八百比丘尼って、あの!?」ともう叫びに近い声で繰り返す。
「…はい、たぶん、その」
言ってしまってからまずいことをしたかもしれないという自覚が芽生え、俯きかける八重だったのだが、三輪が無邪気に「あー、だから脹相さんといてもしっくりきてるんですね!」と言う言葉にパッと顔を上げた。
「え、そうですか?」
「はい!すごくお似合いですよ!」
「あ…そうですか…ありがとうございます…」
不意に以前九十九からもらった『九相図の番』という言葉が思い出された。
一度は意味がないと切り捨てた言葉だったが、ほぼ八重達の関係性を知らぬ人にもそのように言ってもらうと嬉しくなった。
「八重さん、頑張ってくださいね!私は八重さんを応援しますから!」
八重の手を両手でガッシリ握手する三輪に「はい、ありがとうございます」と八重もはにかみながら応じる。
しかし、すぐに「あ、でも」と三輪の瞳を覗く。
「今のことは他の方には秘密でお願いします」
「了解です!皆に知れ渡っちゃったらいろいろと不都合もありそうですもんね!」
「そうなんです。九十九さんにも公言しない方がいいって言われていて」
「わかりました、安心してください!私は口が固い方ですから!」
人差し指を口の前に立ててそう満面の笑みを浮かべる三輪に、八重も優しく微笑む。
「ふふ、そうなんですね。それは安心です」
「お仕事の邪魔しちゃいましたよね?ごめんなさい。八重さんのご飯美味しいから夕飯も楽しみにしてますね!」
「あ、でも太っちゃうかもー」なんて冗談を言い、笑って手を振りながら三輪は図書室を後にした。