第25章 いとほし日々[後編]
ある時、八重が図書室で料理本を読んでいる時だった。
「あのー」と言って八重ににじり寄ってくる者がいた。
水色の長い髪をした細身の女性。
「はい、どうかされましたか?」
八重は本を閉じて向き直ると、女性は恐縮しながら名を「三輪」と名乗った。
八重からすると高専の中で目にしたことはあったが、会話をするのはこれが初めてだった。
「八重さんと五条さんってどんな関係なんですかっ?」
初対面の三輪が八重にズイと距離を詰めると、どこかワクワクしたような輝きを瞳にたたえながら小声で訊いてきた。
「へ?」
出し抜けにそんなことを訊かれれば八重はキョトンとして三輪の顔を見つめた。
「だって、毎日のように五条さんとイチャイ…いえ、仲良さそうなので気になっちゃって」
「あぁ、五条さん、距離近いですよね。毎日おやつを所望されるので出来る限りお作りしてます」
「えー、それだけなんですか?」
「はい」
唇を突き出して納得してないような三輪だったが、すぐに表情を明るくして、「じゃあじゃあ!」と続けた。
「脹相さんとはどうですー?」
「…え…っと…」
こちらは八重にとってはかなりナイーブなところを突く質問だっただけに、咄嗟に答えることができなかった。
それでも、キラキラした目で鼻息荒めに八重の答えを待っている三輪を無下にすることもできず、どうしたものかも思い悩む。
そして。
「…どのように見えますか?」
と質問を質問で返してみた。
すると。
「ただならぬ関係に見えます!」
と即答された。
三輪からしてみればそれは恋バナに発展する類のものを指し示したつもりだったのだろうが、八重にとっての『ただならぬ関係』とは『のっぴきならぬ因果』という風に受け取っていた。
「…三輪さんはとても鋭いお方なのですね……実はそうなんです…」
ズバリ言い当てられたと思い、観念した八重は肯定してしまった。
三輪は「えー!そうなんですか!?」と場所が図書室だということも忘れて、大きな声を上げた。
「…はい、実は150年前からの関係でして…」
「え、そんな前から!?てか、八重さんって何者なんですか!?」
どんどん前のめりになる三輪に八重は逃げ場を失った。