第1章 炎柱は音柱を許さない 【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎】
吉原の入り口で待機していた宇髄天元の元へ、凄まじい熱風と共に一人の男が降り立った。
地面が揺れるほどの勢いで現れた煉獄に、宇髄は余裕の笑みを浮かべて片手を振った。
「よう、煉獄! 派手に帰ってきたじゃねぇか。例の女、借りてるぜ?」
「宇髄! 話は千寿郎から聞いた。をどこへやった! 今すぐ返してもらおう!」
煉獄の気迫は、いつもとは明らかに違っていた。
周囲の空気がチリチリと焼けるような圧を放っている。
宇髄は耳をほじりながら事も無げに言った。
「あぁ? あの女なら、もう京極屋に売り飛ば……いや、潜入させたぜ。あの美貌だ、今頃は派手に客を虜にしてるんじゃねぇか?」
「……何と言った。今、『売り飛ばした』と言ったのか?」
煉獄の声から、一切の温度が消えた。
「いや、語弊があるな! 正確には潜入の手段として――」
「黙れ! 彼女は戦う術を持たぬ一般人だ! しかも俺の大切な、家族も同然の女性だぞ! それをよりにもよって遊郭に放り込むとは、貴様、正気か!!」
ーードォォォォォン!
と、煉獄の足元の地面が爆ぜた。
あまりの剣幕に、さしもの宇髄も一歩後退り、頬を強張らせる。
「おい、待て煉獄! 落ち着け、これは任務――」
「問答無用! もし彼女の身に何かあれば、宇髄、貴様をタダではおかん! 再起不能になるまで叩き伏せてくれる!」
「お、おい……! 本気かよ……。あいつはまだ無事だ、初仕事を前に震えてやがったぜ」
その言葉を聞くや否や、煉獄の怒りは頂点に達した。
「震えていた……!? 慣れぬ場所で一人、怯えていたというのか! 我慢ならん!」
煉獄は宇髄を突き飛ばさんばかりの勢いで追い抜き、吉原の門へと突き進んだ。
「おい待て、煉獄! その隊服のまま突っ込む気か!? 派手に目立ちすぎて潜入もクソもねぇだろうが!」
鼻息荒く突き進もうとする煉獄の襟首を、宇髄が力任せに掴んで引き止めた。
「放せ、宇髄! 一刻を争うのだ! が泣いているかもしれん!」
「落ち着けと言ってんだよ! せめてこれを着ろ。柱が公然と遊郭をぶち壊して回ったら、お館様にどう申し開きするつもりだ?」
宇髄が無理やり押し付けたのは、豪奢な着流しだった。
煉獄は一瞬、般若のような形相で宇髄を睨みつけたが、任務の体裁を盾にされては流石に踏みとどまるしかなかった。
