第1章 炎柱は音柱を許さない 【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎】
数日後、任務を終えて煉獄家へと戻ってきた煉獄を待っていたのは、いつもの温かなさつま芋の香りではなく、静まり返った冷たい空気だった。
「ただいま戻った! ! 千寿郎!」
玄関で声を上げたが、いつもなら「お帰りなさい!」と真っ先に駆け寄ってくる彼女の姿がない。
代わりに奥から足早に現れたのは、今にも泣き出しそうな顔をした千寿郎だった。
「……あ、兄上! お帰りなさい……っ」
「うむ、千寿郎! 帰ったぞ。……して、はどうした? 姿が見えないようだが、買い出しにでも行っているのか?」
煉獄が努めて快活に尋ねると、千寿郎はついに堪えきれなくなったように声を震わせた。
「……申し訳ありません、兄上……! 僕が、僕が不甲斐ないばかりに、さんを……宇髄さんに……」
「宇髄だと? ここへ来たのか」
煉獄の眉がピクリと動く。
千寿郎は数日前の出来事――宇髄が強引にを「潜入調査」の駒として連れ去った一部始終を、一気に吐き出した。
「宇髄さんが、潜入には美人が必要だからと……さんを攫うようにして連れて行ってしまったんです。柱の命令だと言われて、僕は……止めることができませんでした…!」
千寿郎の話を聞き終える頃には、煉獄の周りの空気が、かつてないほどの熱を帯びていた。
その瞳からはいつもの陽気さが消え、炎柱としての峻烈な意志が宿っていた。
「……そうか。状況は分かった。千寿郎、お前は悪くない。自分を責めるな」
「兄上……?」
「は戦う術を持たぬ一般人だ。それを無理やり戦地へ連れて行くなど、宇髄ともあろう者が判断を誤ったようだな……いや、俺の幼馴染を勝手に連れ去った罪は重い!」
煉獄は、解いたばかりの羽織を再び力強く翻した。
「兄上、行かれるのですか!?」
「当然だ! 俺が帰る場所を守ってくれている大切な女性(ひと)を、放っておけるはずがない!」
煉獄は彼女のいるところへ弾かれたように駆け出した。
その背中には、弟への気遣い以上に、愛しい者を奪われた一人の男としての激しい怒りと情熱が、炎となって燃え盛っていた。
(待っていろ、! 今すぐ俺が連れ戻しに行く!)
一刻も早く彼女の無事を確認したい。
その一心で、煉獄は夜の道を疾風のごとく突き進むのだった。