第1章 炎柱は音柱を許さない 【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎】
それは、煉獄が任務でしばらく屋敷を空けていた時のことだった。
煉獄に急ぎの用があった音柱・宇髄が、派手な足音と共に煉獄家を訪ねてきたのだ。
主が不在だと知るや否や、宇髄の鋭い眼光は庭先で家事をしていたに留まった。
「おい、そこの女! 煉獄の身内の者か?」
「え……? はい、使用人として、こちらでお仕えしていると申します」
突然の来訪者に驚き、が居住まいを正した瞬間だった。
宇髄はその端正な顔立ちをまじまじと見つめ、不敵な笑みを浮かべた。
「ほう……。地味に暮らさせておくには惜しい珠じゃねぇか。おい、お前。今日から俺の任務を手伝え」
「えっ? 任務……ですか? ですが、私は剣も振るえませんし……」
「剣なんて振るえなくていい。そのツラと度胸がありゃ十分だ。潜入捜査ってのは、派手な美人が必要不可欠なんだよ」
宇髄は有無を言わさぬ勢いでの腕を掴み、そのまま強引に連れ出そうとした。
あまりの横暴さに、奥から駆けつけてきたのは千寿郎だった。
「待ってください、宇髄さん! さんは戦う人間ではありません! 彼女を連れて行くなんて、あまりに無茶です!」
「あぁ? 柱の命令が聞けねぇってのか、千寿郎。これは緊急事態なんだよ。後で煉獄には俺から派手に詫びを入れといてやる!」
「そんな! 離してください、宇髄さん!」
必死に食い下がる千寿郎だったが、相手は現役の柱である。
その圧倒的な威圧感と体格差を前に、一歩も動けなくなってしまう。
は不安に揺れる瞳で千寿郎くんを振り返った。
「…っ、千寿郎くん! 杏寿郎さんが帰ってきたら、必ず伝えて! すぐに戻るからって!」
抵抗も虚しく、は宇髄に攫われるようにして連れ去られてしまった。
静まり返った屋敷に残されたのは、震える拳を握りしめる千寿郎だけだった。
「……どうしよう。兄上が帰ってきたら、なんて説明すれば……」
柱の命令には逆らえない。
けれど、大切に想う兄の幼馴染を守れなかった悔しさが、千寿郎の胸を突いていた。