第2章 積み上げた日々の温もり
仕切りを跨いで部屋に足を踏み入れると、
温かさが肌を包む。
「お兄ちゃん、お絵描きしよ!」
「しない」
「ガーン」
「フッ、なんなんだよ、それ」
私は何故か、「ガーン」という擬音にハマり、
よく使っては、兄を困らせていた。
「楓」
急に名前を呼ばれて顔を上げると、
兄の手が目の前にあった。
どうしたのかと首を傾げると、
畳につけていた膝が浮く。
兄の術式だった。
無下限呪術というもので、対象を浮かせることも出来るようだ。
「キャハハハ!すごいすごい!
お兄ちゃんもっとー!」
ふわふわと宙に浮くという、慣れない感覚に私は高揚した。
だがすぐに術式は解かれる。
母が扉を開けて、「使うな」と叱った。
危ないからここでは使ってはいけないと。
膝から畳に落ちた私は、その衝撃に涙を我慢した。
泣いたら、兄がもっと怒られると思った。
音を立てず扉を閉めた母。
兄と二人きりになり、涙を零してしまう。
「……お兄ちゃん…痛い…」
兄はすぐに私の隣に来て、蹲った私の背中を摩ってくれる。
「どうした?」
「膝、ぶつけた……」
「……ごめん」
膝を見た兄はすぐに絆創膏を貼ってくれた。
雪が舞い降りる前の灰色の空の下、
もっと深く、兄が私の心に入ってきた日。
何気ない幼い日の記憶。