第6章 正義感の強い彼は彼女を護りたい 【名探偵コナン 降谷零】
「この子は……?」
「僕の飼い犬のハロだ。……どうした、犬は苦手だったか?」
「いえ、そうじゃなくて……。こんなに、優しい顔をした犬がいるなんて」
彼女が恐る恐る手を伸ばすと、ハロは嬉しそうにその手のひらをペロリと舐めた。
「くすぐったい……ふふっ」
「……笑ったな」
降谷は少し驚いたように彼女を見つめ、それから満足そうに口角を上げた。
「ハロも君を歓迎しているようだ。ここでは、君を傷つける命令を下す奴も、無理やり抱こうとする奴もいない。……ゆっくり、自分を取り戻すといい」
キッチンでコーヒーを淹れ始めた降谷の背中と、足元でじゃれるハロ。
彼女は初めて、呼吸が深くできる場所を見つけたような気がした。
セーフハウスでの生活が始まって一ヶ月が過ぎていた。
降谷は「降谷零」「安室透」「バーボン」という三つの顔を使い分け、深夜に帰宅しては明け方に出ていく、多忙を極める日々を送っていた。
ある夜、午前二時を回った頃。
降谷が疲れ果てた体を引きずって玄関の鍵を開けると、そこには仄かな出汁の香りと、リビングの隅で点けられた小さな間接照明の光があった。
「……ただいま、ハロ」
「クゥーン」
出迎えたハロの向こう側で、ソファから彼女が慌てて体を起こした。
「お帰りなさい、降谷さん。……また、随分と遅かったんですね」
「ああ。起こしてしまったか。……悪い、先に寝ていていいと言っただろう」
降谷はネクタイを緩めながら、キッチンカウンターに置かれた大皿に目を留めた。
そこには乾燥しないように丁寧にラップがかけられた、和食の献立が並んでいた。
「少し、お腹に入れませんか? 胃に優しいものを作っておいたんです。お仕事、ずっと詰めていらしたんでしょう?」
「……助かるよ。正直、何も食べていなかったんだ」
彼女が手際よく食事を温め直す背中を、降谷はぼんやりと眺めていた。
禪院家で「道具」として扱われていた彼女は、ここでは驚くほど献身的に、そして繊細に降谷の体調を気遣っていた。