第5章 半冷半燃の少年は彼女を温めたい 【ヒロアカ 轟焦凍】
夕暮れのA組寮、ハイツアライアンス。
いつもなら誰かの笑い声や爆発音が響いているはずの共有スペースには、重苦しい沈黙が立ち込めていた。
「……明日の朝までに決まらなければ、公開座学…」
「ええ……相澤先生、目は笑っていませんでしたわ……」
ジロ、と座り込むクラスメイトたちが互いを牽制し合う。
ダンス、バンド、演劇、あるいは模擬店。
どれも個性的で、どれも一歩も譲らない。
そこへ、ランチラッシュの手伝いを終えたいのりが、おずおずと戻ってきた。
「……あの、ただいま戻りました。……皆さん、どうされたんですか? お通夜のような顔をして……」
「あ、いのりちゃん……。実はさ、文化祭の出し物が決まらなくて……」
麗日が力なく事情を説明する。
隣では轟が、一人静かに腕を組み、難しそうな顔で床を見つめていた。
いのりは轟の隣へ歩み寄り、小さな声で尋ねる。
「轟さんは、何かやりたいこと、ないんですか?」
「……俺か。俺は、……正直、何をすれば人が喜ぶのか、よく分からねえんだ」
轟は少し自嘲気味に呟いた。
「俺の右(氷)は人を拒絶するために、左(炎)は……親父を否定するためにあった。誰かを楽しませるなんて、想像がつかねえ」
その言葉に、いのりは胸が疼くのを感じた。
自分を救ってくれたあの時の熱、手首の腫れを引かせてくれたあの時の心地よい冷たさ。
個性の仕組みはよく分からなくても、彼女には分かっていることがあった。
「……そんなこと、ありません。轟さんの力は、とても綺麗です」
彼女の声に、轟が顔を上げる。
「……戦うためじゃなくて、ただ『綺麗だ』と思わせるためだけに、力を使えませんか?」
「……俺の力で、……綺麗だと思わせる?」
「はい。焦凍さんが氷を空に放って、それを左の熱で細かく砕けば、光が反射して宝石みたいに降るんじゃないかって……。そこに、皆さんの音楽やダンスが重なれば……きっと、素敵です」