第5章 半冷半燃の少年は彼女を温めたい 【ヒロアカ 轟焦凍】
放課後。
寮に戻った轟は、共有スペースで女子たちと楽しげに談笑する彼女の姿を見つけた。
「ねえ、今日のランチの小鉢、いのりちゃんが手伝ったんでしょ? すっごく美味しかったわ!」
「八百万さん……。本当ですか? 味付け、薄くなかったでしょうか」
「全然! むしろ心まで温まるようなお味でしたわ」
輪の中心で、彼女は頬を微かに赤らめて笑っていた。
出逢った頃の、泥の中で震えていたような面影はない。
その笑顔は、この世界の光を吸い込んで、少しずつ輝きを取り戻しているように見えた。
「……轟くん? 突っ立ってどうしたの」
後ろから帰ってきた緑谷に声をかけられ、轟はハッとして視線を外した。
「……いや。あいつ、馴染んでるなと思ってな」
「うん。最初はあんなに怖がってたのに、今じゃ自分からランチラッシュさんの手伝いに行ってるもんね。……轟くんのおかげだよ」
「……俺の、おかげか」
轟は、彼女の笑い声を聞きながら、胸の奥に小さな、澱のような感情が溜まるのを感じていた。
彼女がこの世界に馴染み、自分以外の人間とも笑い合えるようになること。
それは彼が一番に望んでいたことのはずだ。
だが、あの夜、自分の服の裾を必死に掴んで「行かないで」と泣いた彼女。
自分だけが彼女の唯一の光だったあの時の、ひりつくような感覚。
それが少しずつ「みんなの中のひとり」になっていくことに、言いようのない寂しさが、ほんのわずかだけ混ざり込んでいた。
「轟さん!」
彼女が轟の姿に気づき、小走りで駆け寄ってくる。
「おかえりなさい。あの……今日、ランチラッシュさんに教わって、お菓子を少し作ったんです。もし良かったら、後で……」
「……ああ。楽しみにしてる」
轟は、彼女の頭をそっと撫でた。
その手つきは優しかったが、どこか自分に言い聞かせるような、少しだけ寂しげな熱を帯びていた。
「(……もっと笑え。……それでいいんだ)」
彼女が「直哉」という呪縛を忘れ、一人の少女として自立していく。
それを守ると決めたのは自分だ。
轟は込み上げる独占欲を静かに飲み込み、彼女の隣に腰を下ろした。