第5章 半冷半燃の少年は彼女を温めたい 【ヒロアカ 轟焦凍】
その日の夜。
夕食を終えた共有スペースで、彼女は女子たちに囲まれながら、恐る恐るテレビを眺めていた。
轟は少し離れたソファから、その様子をじっと見守っている。
「轟、心配なのはわかるけど、あんまり凝視してるとストーカーみたいだよ」
上鳴電気がニヤニヤしながら声をかけるが、轟は真顔で返した。
「……あいつ、さっき少しだけ笑ったんだ」
「えっ、あ、そう……。それは良かったな」
「あいつがいた場所には、笑いなんてなかった。……ここにはあいつを道具扱いする奴もいない。ここなら、あいつも……」
轟の言葉に、隣にいた爆豪がフンと鼻を鳴らした。
「……ケッ。弱っちい奴だな。だが、ここで吠える奴はいねえ。……おい、お前!」
爆豪が彼女を呼ぶと、彼女は肩を跳ねさせて硬直した。
「……あ、はい、……っ」
「そんな顔すんな! ……辛気臭えのは飯が不味くなる。……これ、食え。余ったんだよ」
爆豪が差し出したのは、彼が作ったスパイシーな辛口カレーの小皿だった。
「……からい……でも、すごく、美味しいです……」
鼻の頭を赤くしながら、彼女が初めてはっきりとした笑みをこぼした。
その瞬間、共有スペースに歓声が上がる。
「笑ったー! 激マブじゃん!」
「爆豪の辛口を笑顔で食うとは……大物だな」
轟は、彼女の笑顔を瞳に焼き付けるように見つめていた。
彼女を縛っていた禪院家の呪縛は、この騒がしくも暖かい日常の中で、少しずつ、しかし確実に溶け始めていた。
秋の陽だまりが差し込む雄英高校の食堂。
授業中の静かな校内に、包丁がまな板を叩く小気味よい音が響いていた。
「おっ、筋がいいねえ! その野菜の切り方、丁寧で助かるよ」
ランチラッシュが豪快に笑いながら、大きな鍋をかき混ぜる。
彼女はエプロン姿で少し照れくさそうに、しかし以前の怯えが嘘のように安定した手つきで大根の皮を剥いていた。
「いえ……。今まで、これくらいしかできることがなかったので。お役に立てて嬉しいです」
「十分だよ! 飯を食わせる相手のことを想って作る。それが料理の基本だからな。君の切った野菜は、なんだか優しい味がしそうだ」