第5章 半冷半燃の少年は彼女を温めたい 【ヒロアカ 轟焦凍】
数十分後。
病院の廊下に、気だるげに首の捕縛布を整えながら相澤が現れた。
「……轟。状況は塚内から聞いたが、お前、何を言い出すかと思えば……」
「相澤先生。彼女、俺以外の大人を……男を、極端に怖がってる。施設に無理やり入れたら、心が壊れるかもしれない」
相澤は病室のドア越しに、ベッドの上で震えながら轟の背中を見つめる彼女を一瞥した。
その凄惨な傷跡と、怯えきった様子――。
合理主義を掲げる相澤の目から見ても、今の彼女を環境の違う施設へ放り込むのは「合理的」とは言い難かった。
「……お前の言い分はわかった。だが雄英は今度重なるヴィランの襲撃で警戒体制を敷いてる。素性の知れない者を、一学生の一存で寮に入れるわけにはいかない」
「……そこを、なんとか」
「俺の一存じゃ決められねえ案件だ。校長や他の教師、それに警察とも慎重に協議する必要がある」
相澤は溜息をつき、鋭い視線を轟に向けた。
「……いいか。今日はもう夜も遅い。無理に動かす方がリスクだ。取り敢えず、今晩はここの病院で警察の監視付きで過ごしてもらう。寮での保護については、明日中に結論を出す。……それでいいな?」
「…………。わかりました」
轟は渋々ながらも頷き、病室に戻った。
ベッドの上の彼女は、相澤の姿を見てまた震えていたが、轟が戻ると少しだけ呼吸を整えた。
「……轟さん、私……やっぱり、どこかへ……?」
「いや。今日はここでゆっくり寝ていい。……明日、お前が安心して過ごせる場所を、俺が必ず見つける」
「……約束、してくれますか……?」
彼女の細い指が、恐る恐る差し出される。
轟はその指を包み込むように握り、力強く頷いた。
「ああ。約束だ。……もう二度と、あんな思いはさせねえ」
その夜、轟は彼女が眠りにつくまで、その手を離さなかった。
あちらの世界で直哉に刻まれた「絶望」を、この世界の「温もり」で上書きするように。