第5章 半冷半燃の少年は彼女を温めたい 【ヒロアカ 轟焦凍】
病院の白すぎる照明が、今の彼女には酷く残酷に思えた。
轟の着せてくれた大きな上着に包まれ、ストレッチャーで運ばれていく彼女。
その隙間から覗く、縄目が食い込んで内出血した細い手首と、制服の残骸から滴る汚れに、看護師たちは息を呑み、即座にカーテンの向こうへと彼女を連れ去った。
数時間後。
病院のベンチで、轟はやってきた警察官の問いに答えていた。
「……だから、母親の見舞いの帰りで、路地裏に倒れているのを見つけた。それ以上のことは知らない」
「君、雄英の生徒だろ? 戦った形跡とか、犯人の特徴は?」
「……。見つけた時には、もうあの状態だった」
轟の声は、抑えているが鋭かった。
犯人への怒りと、何もできなかった自分への苛立ちが混ざっている。結局、身元に繋がる遺留品もなく、事情聴取は平行線のまま終わった。
「轟くん」
声をかけてきたのは、処置を担当した看護師だった。
「処置……終わりました。身体的な外傷の手当てと、その、……洗浄も。ただ、精神的なショックがかなり大きいみたい。ずっと、何かを怖がって震えていて……」
「……会えますか」
「ええ。あなたの姿を見て、少し落ち着くかもだから。……一緒に行ってあげて」
個室の扉を静かに開けると、消毒液の匂いの中に、かすかに彼女の震えが混じっているような気がした。
彼女は清潔な病衣に着替えさせられていたが、ベッドの上で膝を抱え、限界まで身を縮めていた。
「……俺だ。轟だ」
轟がベッドの傍らに椅子を引き、静かに座る。彼女の肩がびくりと跳ねた。
「……轟、さん……」
「……体、痛むか?」
「…………わから、ないです……。ただ、ずっと、……あつい、から……」
彼女は自分の下腹部を、縋るように抱きしめた。
直哉に何度も、奥深くまで注ぎ込まれた暴力の感覚が、洗浄してもなお消えない。
「……直哉さん、は……ここに来ます、か……?」
「直哉? ……は誰かわからねぇが、ここには誰も来させねえ。安心しろ」
「……でも、私……あそこから…逃げたから、また、もっと酷いことを……っ」
彼女の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
その言葉の内容に、轟は奥歯を噛み締める。
彼女のいた場所は、想像を絶する地獄だったのだと。