第10章 彼は彼女を取り戻したい 【ONE PIECE ロー】
「……っ!!」
世界貴族が、殴られた。
世界の理を拳一つで叩き潰したルフィの背中を、いのりは震えながら見つめていた。
「……全く。とんだ騒ぎを引き起こしてくれたな、麦わら屋」
刀を抜き放つと同時に、ローの足元から青い半球状の空間が広がっていく。
「『ROOM』」
次の瞬間、いのりの体は、ステージの上から客席に座るローの腕の中へと、一瞬で「入れ替わって」いた。
「……ロー、さん……」
「……バカなツラしてんな。少しは落ち着け」
ぶっきらぼうに言い放ち、ローはいのりの首輪を破壊すると自分の背後へと押し込んだ。
そこへ、巨大な鉄屑の腕を振り回したユースタス・キッドが、狂気的な笑みを浮かべて合流する。
「おい、トラファルガー。そっちの女、ずいぶん大事そうに抱えてるじゃねェか。お前の『趣味』か?」
「……黙れ、ユースタス屋。余計な口を叩くと、その金属の塊ごとバラバラにするぞ」
「ハッ! 怖ェな。……だが、そのツラ……。オークションで高値がつくのも頷ける。俺が奪ってやろうか?」
「……二度とその口を利けねェようにしてやろうか、ユースタス屋」
ローの瞳に、静かな、しかし苛烈な殺意が宿る。
会場の外に出ると、自分たちを包囲する数多の海兵。
自分を蹂躙した男たちの組織。
いのりは、ローの広い背中の後ろから初めて見る「海賊」たちの本気の戦いに、全身の震えが止まらなかった。
「ぎゃあああ!? 体が、斬られたのに血が出ねェ!!」
「俺の足が……どこに行ったんだ!?」
目の前で繰り広げられる光景に、いのりは息を呑んだ。
海兵たちの体が、まるでパズルのピースのようにバラバラに切り離され、空中に浮かんでいる。
痛みもなく、死ぬこともなく、ただ「解体」されていく。
「……これが、ローさんの力……」
いつも船で不器用に自分を気遣ってくれていた「医者」の姿ではない。
冷酷に、そして圧倒的な精密さで戦場を支配する「死の外科医」としての姿。
ルフィが暴れ、キッドが破壊し、ローが空間を切り刻む。
三人の「最悪の世代」による共闘。
その異質で圧倒的な強さを前に、いのりは恐怖を忘れ、ただただ背中を守ってくれる男の、冷たくも確かな熱量に目を奪われていた。