第10章 彼は彼女を取り戻したい 【ONE PIECE ロー】
羞恥心が限界を突破し、いのりが顔を真っ赤にしてその場に立ち尽くした、その時だった。
背後から逞しい腕が伸び、彼女の細い腰をぐいと引き寄せる。
後頭部に当たったのは、聞き慣れた心音と、少し不機嫌そうな低い声だった。
「——おい。お前ら、俺の女をあまりからかうなと言ったはずだ」
「キャプテン!」
「お熱いねぇ!」
「この女を泣かせていいのは、ベッドの上で俺だけだ。そうだろ?」
「ヒョーッ! 言うねぇ、キャプテン!」
「独占欲の塊だな、おい!」
ローはいのりを背後から包み込むように抱きしめ、周囲を威圧するように灰色の瞳で睨みつけた。
「いいか。こいつは俺の女だ。昨日あんな場所にいたのも、あんな目に遭いそうになったのも、全部俺の不徳の致すところだ。……だがな、今はもう、髪の一本に至るまで俺の所有物(モン)だ。文句はねェな?」
海賊らしい、あまりに傲慢で真っ直ぐな宣言。
一瞬の静寂の後、食堂は割れんばかりの歓声と口笛に包まれた。
「ヒュー! さすがキャプテン!」
「幸せにしろよ、この野郎!!」
「いのり、おめでとう! ハートの海賊団の正式な『嫁』だな!」
「……ロー、さん……」
腕の中で顔を赤くし小さくなっているいのりの耳元で、ローはわざと周囲に聞こえるような声で囁いた。
「……まだ腰が抜けてるようだが、飯を食ったらまた部屋に戻るぞ。まだ『塗り潰し』が足りねェようだからな」
「っ!? もう、勘弁してください……っ!!」
「あはは! キャプテン、ほどほどにね! !」
ベポの声と共に、食堂は温かな笑いに包まれた。
直哉による呪縛も、昨日の絶望も、もう、この騒がしくも愛おしい潜水艦の喧騒の中に、完全に溶けて消えていた。
海賊の女として生きる。
それは、誰よりも自由に、愛されるということだーー。