第10章 彼は彼女を取り戻したい 【ONE PIECE ロー】
落札の鐘が、いのりの耳に死刑宣告のように冷たく響いた。
「——決まりだ! 2億ベリー、チャルロス聖のご落札だぁ!!」
ステージの上で、いのりは糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
屈辱に濡らされた身体は、いまや天竜人の「所有物」として決定づけられた。
(ローさん……私、もう……)
客席の中段。
ローは深く帽子を被り、微動だにせずステージを睨みつけていた。
隣でベポが、消え入るような声で呟く。
「……1億でも、俺たちの全財産に近かったのに……。2億なんて……アイアイ、どうすれば……」
ローは何も答えない。
本当なら今すぐ彼女を奪い去りたい。
だが、ここは海軍本部が目と鼻の先にあるシャボンディ諸島。
ここで天竜人に手を出せば、大将が動き、船の仲間全員を危険に巻き込むことになる。
医者として、そして船長として、一時の感情で動くことは許されない。
その理性が、ローを椅子に縛り付けていた。
いのりは震える瞳で、遠くに座るローを見つめた。
(もう、汚されてしまった私は、あのみんなのいた明るい船に戻っれない…)
絶望と、言いようのない自己嫌悪。
「ほほー、あの女、近くで見るとますますいいえ。すぐに首輪の鎖を繋ぐえ」
チャルロス聖が鼻を鳴らしながら奴隷に命令し、ラストの1番の目玉商品である『人魚』に5億ベリーの価格をつけた時それは起きた。
ドォォォォォン!!
「ぎゃああああ!? 壁が、天井が!!」
「上から何か降ってきたぞ!!」
会場の天井を突き破り、巨大なトビウオと共に乱入してきたのは、麦わらの一味だった。
「——ケイミー!! 助けに来たぞ!!」
ルフィの怒号が会場に響き渡る。
その騒乱の中、チャルロス聖が銃を構えて喚き散らす。
ローはわずかに口角を上げ、静かに腰を浮かせた。
「——あいつ、人魚を逃がすつもりだえ!!」
チャルロス聖が下卑た笑みを浮かべ、ケイミーに銃口を向けた。
その瞬間、猛然とステージを駆け上がったルフィの拳が、天竜人の顔面に真っ向から叩き込まれた。
「やめろぉぉぉ!!! 麦わらぁ!!!」
パッパグの静止も、ハッチの叫びも届かなかった。
ドゴォォォォォン!!!
衝撃で樹脂のシャボンが粉々に砕け散り、チャルロス聖の巨体が幾重もの客席をなぎ倒して吹き飛んだ——。
