第10章 彼は彼女を取り戻したい 【ONE PIECE ロー】
「……浮かれるのは勝手だが、俺たちの側を離れるなと言ったはずだ」
ローはそう言いながら、彼女のワンピースの肩を軽く叩いた。
「ここは『無法地帯』でもある。一歩間違えれば、お前のその笑顔を買い叩こうとする腐れ野郎どもがウジャウジャいるからな」
「……はい! ローさんの側なら、どこへでも行きます」
いのりが屈託なく笑いかけると、ローは一瞬だけ気圧されたように視線を逸らし、短く「……行くぞ」と促した。
「よし、お前ら! 上陸だ! 目立つ真似はするなよ!」
「アイアイ、キャプテン!」
七色の泡が舞い上がる幻想的な島。
いのりにとって、それは新しい世界で最初に見る、最高の「自由」の景色だった。
シャボンディ諸島のメインストリートは、どこを見渡してもキラキラとした輝きに満ちていた。
空を舞うバブルに、屋台から漂う甘い菓子の匂い。
「……じゃあ、俺は少し野暮用を済ませてくる。お前ら、いのりから決して目を離すなよ」
ローはそう言い残すと、人混みの中へと消えていった。
「あ……」
伸ばしかけた手が、空を切る。
それを見たベポが、慌てていのりの前に回って両手を広げた。
「アイアイ! いのり、寂しい? 大丈夫、俺たちが精一杯楽しませるからね!」
「そうよ! キャプテンはいつもああなんだから。さあ、次はあっちのバブル観覧車に乗ってみましょ!」
イッカクに腕を引かれ、いのりは無理に笑顔を作った。
「……はい! すみません、せっかくこんなに素敵な場所に来たのに」
「いいのよ、気にしないで! ほら見て、あの屋台の綿あめ、すごく大きいわよ!」
一行が笑い合い、シャボン玉の魔法に夢中になっている影で。
物陰から、濁った欲望を孕んだ視線がいのりを執拗に追っていた。
「……おい、見ろよ。あの女……」
「ああ、極上品だ。あの澄んだ瞳に、どこか儚げな空気。オークションに出せば、天竜人の旦那方がいくら積むか想像もつかねェぞ」
「取り巻きがいるが……一瞬の隙を突けばいけるはずだ」
男たちは、下卑た笑みを浮かべてナイフを懐に忍ばせた。