第10章 彼は彼女を取り戻したい 【ONE PIECE ロー】
「ええっ!? キャプテン、何言ってんだよ!」
「そうですよ! いのりちゃんがいなくなったら、船のメシが寂しくなる!」
「行かないでくれよぉ、いのり〜!」
ベポに至っては「アイアイ……! 寂しいよぉ……!」と彼女の裾を掴んで泣き出す始末だ。
だが、ローは鋭い一瞥で騒ぐ男たちを黙らせた。
「黙れ。……決めるのはこいつだ」
ローの灰色の瞳が、試すようにいのりを射抜く。
「お前はもう自由だ。どこの誰にも縛られねェ。……このまま平穏な島で暮らすか、それとも、いつ命を落とすか分からねェ俺たちの船に乗るか。選べ」
いのりは、じっと自分の手を見つめた。
以前のような、震えはない。
彼女はゆっくりと顔を上げ、ローの目を真っ直ぐに見返した。
「……ローさん。私は、この世界のことをまだ何も知りません。でも……」
彼女は一歩、歩み出た。
「私を『ただの人間』として扱ってくれたのは、ここが初めてでした。……もし、差し支えなければ、このまま皆さんと一緒に行かせてほしいんです」
「……本気か? この先は『新世界』。地獄のような場所だぞ」
「あの屋敷にいた頃に比べれば、どこだって天国です。それに……」
いのりは少しだけ悪戯っぽく、けれど確かな意志を込めて微笑んだ。
「ローさんの看病が、まだ必要ですから」
一瞬の沈黙。ローはふいっと視線を逸らし、短く鼻で笑った。
「……フン。勝手にしろ」
彼は踵を返し、潜水艦へと歩き出す。
「だが、うちは慈善事業じゃねェ。働かざる者食うべからずだ。せいぜい粉骨砕身、クルーのために働いてもらうぞ」
「はい! もちろん、精一杯頑張ります!」
「やったあああ!! いのりちゃん継続だ!!」
「宴だ! 宴の準備をしろー!」
歓喜に沸くクルーたちに揉まれながら、いのりは潜水艦のタラップを登る。
背中越しに感じるローの気配は、相変わらず不遜で冷たそうに見えるけれど、今の彼女にはそれが誰よりも温かく感じられた。
「……さあ、行くぞ。潜航準備!」
ローの号令とともに、ハッチが閉まる。
新しい世界、新しい仲間。
そして、自分を名前で呼んでくれる人がいる場所。
いのりを乗せた鉄の船は、自由を求めて深い青の世界へと潜っていった。