第9章 彼は遊女の彼女を手放したくない 【鬼滅の刃 不死川実弥】
不死川の屋敷での生活も数週間が過ぎ、いのりはようやくこの時代での、静かな日々に安らぎを覚え始めていた。
そんなある日の午後、不死川が任務で不在にしている屋敷に、派手な足音と共にあの男がやってきた。
「よお、元気にやってるか? 派手に様になってきたじゃねぇか」
「あ……宇髄さん。こんにちは」
宇髄は庭先で洗濯物を干していたいのりを見て、不敵にニヤリと笑った。
「あんたのその美貌、やっぱり屋敷に閉じ込めておくには勿体ねぇな。……どうだ、もう一度だけ俺の任務を手伝う気はねぇか? 潜入調査の勘は、あんたが一番持ってる」
宇髄は一歩近づき、声を潜める。
「あんたのあの『技』……客を骨抜きにする手練手管があれば、情報の引き出しも早ぇだろ。不死川には内緒で――」
その時だった。
「――誰に内緒だってェ?」
背後から、地響きのような低い声が響いた。
見れば、そこには顔に青筋を立てた不死川が、獲物を狩る獣のような眼光で立っていた。
「テメェ……宇髄……ッ! 何、俺の居ねぇ間にコソコソ嗅ぎ回ってやがる……。その女はもう遊郭の人間じゃねェっつっただろォが!!」
不死川は玄関先に荷物を放り出すなり、宇髄の胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄った。
「あァ!? 潜入だぁ? 技だぁ? テメェ、まだこの女をあんなクソ溜めに戻す気か!? ぶち殺してやろうか、この野郎!!」
「おっと、怖い怖い。不死川、お前そんなにこの娘を気に入ってたのか? 派手に独占欲全開じゃねぇかよ」
宇髄はひらりと身をかわし、肩をすくめて笑う。
不死川の怒髪天を突く勢いに、いのりは洗濯物を抱えたまま、おろおろと二人の間を見つめていた。
「気に入ってるとかそういう問題じゃねェ! 恩を仇で返すような真似すんなっつってんだよ! 二度とこの女に遊郭の話を振ってみろ、そのド派手な頭カチ割ってやるからな!!」
不死川が肩を怒らせて屋敷の中へ入っていくのを見送り、宇髄は「やれやれ」と額を押さえた。
「ったく、あいつの沸点の低さは相変わらずだな……。悪かったな、。冗談だよ。あんな顔されたら、もう怖くて誘えねぇわ」
「いえ……宇髄さんも、お仕事が大変なのは分かっていますから」
「ふん、殊勝なこった。……そうだ、お詫びについでに良いことを教えてやる」
