第9章 彼は遊女の彼女を手放したくない 【鬼滅の刃 不死川実弥】
ようやく身を清め、簡単な朝餉を済ませた後、不死川は動けない彼女を布団へ横たわらせた。
台所で慣れた手つきで後片付けをしていた不死川だったが、背後から聞き覚えのある、ド派手な足音が近づいてくる。
「よぉ、不死川。昨日の任務の報告、……って、なんだその顔は?」
そこには、ひょっこりと顔を出した宇髄の姿があった。
宇髄は屋敷に足を踏み入れた瞬間、その鋭い鼻をピクリと動かした。
「……ほう。なんだ、このド派手に甘ったるい匂いは」
宇髄の視線が、奥の部屋へと向けられる。
そこには、疲れ果てて眠りについた彼女の気配があった。
不死川は露骨に顔を背け、皿を洗う手を乱暴に動かした。
「……チッ、うるせェ。報告なら書面で出すっつっただろォが」
「隠しても無駄だぜ。お前のその、憑き物が落ちたようなスッキリしたツラ。それに、屋敷中に充満してるこの『事後』の匂い……。派手にやったな、お前?」
「ぶち殺すぞ、宇髄……ッ!」
不死川が真っ赤な顔で振り返り、濡れたままの拳を握る。
しかし、宇髄は余裕の笑みでそれをかわした。
「まぁ怒んな。俺が教えた『おはぎ』が効いたのか、それともお前の『獣』が暴走したのか……。どっちにしろ、あの娘をあんな風に眠らせるまで可愛がったのは、他でもねぇお前だろ?」
「……あァ、そうだよ。文句あるか。……あの女は、もう俺のもんだ。テメェが二度と遊郭に連れて行こうなんて思わねぇよう、刻み込んでやったんだよォ」
不死川ぶっきらぼうに吐き捨てたが、その瞳には強い独占欲と、隠しきれない充足感が宿っていた。
「ハッ! 惚気かよ、……あんなに女を拒んでた鬼の不死川が、今じゃ胃袋も心もガッチリ掴まれて。派手に傑作じゃねぇか」
宇髄は笑いながら不死川の肩を叩いた。
不死川は「うるせェ」と悪態をつきながらも、その手を振り払うことはなかった。
「……騒ぐなら帰れ」
「はいはい。祭りの神様はお邪魔虫ってわけだな。……お幸せにな」
宇髄はひらりと手を振って去っていった。
静まり返った屋敷の中で、奥の部屋にいる愛しい人の気配を感じ、不死川はふっと口角を緩めた。
「……飯、精のつくもんでも作ってやるか」
独り言を呟きながら不死川は、もう二度と手放すことのできない彼女を想い、噛み締めるように守り続けることを誓ったのだったーー。
